『棺姫のチャイカVII』
『棺姫のチャイカVII』(榊一郎/富士見ファンタジア文庫)
わりとあっさりチャイカシステム(?)が明らかになったあたり、作者側にあまり本物か偽物かと言うことそのものを重視していない姿勢がわかる。それが悪いわけではなくて、むしろ本物とか偽物とかどうでもいいというスタンスは、わりとわかるというか、自分にも親しい感覚だ。オリジナルであることの特権性と言うのは、こう言ってはなんだがただの幻想のようなもので、この世に真実絶対の本物などと言うものは存在しないということが出来る。本物などと言うものが存在するとしたら、それは純粋な観念的存在でしかないだろう。なぜなら、現実として物質となった時点で劣化、いや変化と言った方が正確か、していくからだ。本物がいつまでも本物であるとは限らず、偽物がいつまでも偽物とは限らない。偽物が本物になり替わるのかもしれないし、あるいは全然別のものになってしまうかもしれない。つまり、本物か偽物かと言うのは一つの”状態”である過ぎない、と言えるのかもしれない。まあ、この辺は妄想みたいなものだけど。
作中のギィの言葉からすると、どうも皇帝の遺体争奪戦自体は選別のためであって、と言ってもそれは”本物”を決めるための選別であるかどうかは怪しいもので、おそらく道具の品質チェックぐらいの意味しかないのではないだろうか。黒のチャイカ、赤のチャイカもそのあたりの事実を理解してきたことで、おそらくはそのあたりを悩む展開になるような気配はあるのだが、正直なところあまりその辺は重要な話にはなりそうもないと思う。主人公のトールが本物偽物にこだわりのないタイプなので、彼を頼りにしている気配のあるチャイカもあまり気にしないのかもしれない。まあ、この作者はそういう手続きを経るタイプだと思うので、なにかしらやると思うけどね。その意味では赤のチャイカが危ないかもしれない。
それにしても、どうやらメタ世界だか上方世界みたいな存在があるらしい気配があって、おそらく皇帝にとっての真の敵はそっちにあるようだ。チャイカたちは、その真の敵に対する兵器のような存在なのだろう。遺体争奪戦と上方世界との戦いをどのように両立させるのか。そのあたりはちょっと興味が沸く感じ。
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