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2013.06.20

『世界征服』

世界征服』(至道流星/星海社文庫)

第一印象としては、同作者による『羽月莉音の帝国』のプロトタイプと言う印象だが、それは『帝国』よりも劣っているというわけではなくて、むしろ濃縮された今作『世界征服』の要素を分解、再構築されたのが『帝国』なのだという印象だ。むしろ物語の疾走感、飛躍っぷりにおいては『世界征服』の方が優れているという言い方も出来る(もっともそれは序盤の展開だけで、『帝国』の後半の展開は、長く続いた物語特有の大河ドラマのようなうねりが生まれており、あれはあれで得難いものだ。だけどまあ、それはさておく)。世界征服を最短で行うと言うのは、現代において世界≒経済と言う認識があってのことで、意図的に政治的な要素は排除されているのだが、この点は『帝国』との大きな相違点かもしれない。あくまでも金の流れ、人の流れだけが世界である、と言う極端にもほどがある認識を元に物語が動いていく感覚は、確かに独特の圧縮された物語が感じられる。

ライトノベル的に言うと、ヒロインの凛と言うキャラクターの強烈さがまず挙げられるだろう。彼女は『帝国』における莉音と恒太と柚の役割を一人に集約されたようなキャラクターだ。勿論これは逆で、彼女をモデルとして三人が構築されたということだろう。だが、そのキャラクターはあまりにも万能であり、超人過ぎであって、およそヒロインとしては突き抜けすぎている。つまり、あらゆる苦難を本人の力だけで突破出来るような、およそ人間としての弱みのないキャラクターなのだ。それではヒロインとして機能しているのかと思われるかもしれないが、これが存外に、なかなか面白いキャラクターであると思うのだった。彼女は本当に天才的であり、その天才性に相応しいほどにエキセントリックな人格でもある。それはほとんど性格破綻者スレスレではあるのだ。だが、よく考えて欲しい、ライトノベルのヒロインの大半は、そもそも性格破綻者ではなかったか、と(暴論)。つまり、彼女はあまりにもキ○ガイ過ぎるために、結果的にライトノベルヒロインとしての精度が高いのだ。その言動のほとんどは凡人である主人公には想像もつかないレベルの意味があり、行動のほとんどにも彼女独特の意思のもとに意味を持つ。それを主人公は翻弄されるしかないのだが、しかし、その独特の振る舞いと言動が凛の魅力であることは疑いえないだろう。

例えば、彼女の癖の一つとして、常に”主人公と手を繋ぐ”というのがある。二人で外出するとき、彼女は当たり前のように手を繋ぐのだが、しかし、それが恋愛感情だとか、あるいは親愛の現れであるかとか、そういうものでは(たぶん)ない。少なくとも物語中では明らかにされない。それがどのような意味を持つのかはわからないが、彼女の行動には常識、あるいは一般的な論理では計り知れない”破綻”があって、それが彼女を魅力的なものにしているように思う。つまり、”ラノベ的にキャラが立っている”のだ。これは作者が最初からラノベヒロインとして構築しているというよりも、彼女のキャラクターが過剰すぎるがゆえに、”結果的に”ラノベヒロインとして成立しているように思う。つまり、彼女の人格的偏りは、彼女の完璧さを損なうものであり、損ないがあってこそ人間的である、と言うことだろう。

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