『デスニードラウンド ラウンド1』
『デスニードラウンド ラウンド1』(アサウラ/オーバーラップ文庫)
アサウラ先生のガンアクション物とはずいぶんと懐かしく、また、この人間の命や倫理観が妙に乾いている感覚もまた同じように懐かしいいのだった。この乾いた感じは人の生死が軽いと言うことではなくて、単に人が生きること死ぬことが当たり前のものとして扱われているということであって、それが正しいかどうかはともかくとして、少なくとも読者に感動を強制しようとするものとは無縁であるというのはそれだけで好ましいものだった。
そうした恬淡さは物語上にも表れていて、主人公はかなり悲惨な状況に陥っているのだけど(内臓を売るか、売春するか、その辺と同レベルで悲惨)、それなりに楽しくやっているように見えなくもないのだが、それはただそう見えるだけでやっぱり悲惨なものなのだ。ただ、その悲惨さに悲惨がってない、と言うと変な日本語になるのだけど、まあ別に苦しい時に苦しんで見せる必要は実はないよね、みたいな。まあ、それと彼女を陥れているおっさんに悪意が見えないのも大きくて、それがこの物語の恬淡さを支えていると言ってもいいのだろう(勿論、人間とは悪意なくしても他者を破滅させることが出来る生き物であるのだが)。
前半の、悲惨な状況なのにあんまり悲惨には見えないのに、よく考えなくてもやっぱり悲惨なヒロインが前向きに頑張っているシーンもけっこう良かったけれども、後半のトンデモバトルシーンもなかなか良かった。いきなりマジックとか言い出したキャラの超人的能力で真面目にガンアクションをしている主人公たちを蹴散らしていく展開には驚かされるというか、ギャップが面白かった。やっていることは本当に生きるか死ぬかの極限バトルなのだけど(名無しのモブたちは悲壮でカッコイイ覚悟や信念の中で死んでいく)、しかし、表に出ているのはギャグでしかないというのは、やはりベン・トーの作者らしいと言えるだろう。そして、ベン・トーで見せたシリアスなギャグ、あるいはギャグっぽいシリアスと言うのは、作者の元来持っているひねくれ具合と言うか、そういうのの現れなのだな、と思った。
その結末もまた、苦味の強い残酷さを描きながら、苦いままで描かないようなところがある。しかし、やはり実際には苦いし残酷であることにはまったく変わりなく、その事実をほんの少しだけずらして描くようなところが、とても面白いと思うのだった。
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