« 『なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る』 | トップページ | 『世界征服』 »

2013.06.11

『魔法少女育成計画 episodes』

魔法少女育成計画 episodes』(遠藤浅蜊/このライトノベルがすごい!文庫)

今までは極限状況下での魔法少女の壮絶な戦いを描いてきたシリーズだったけれども、今回は魔法少女たちの日常的な活動が描かれている番外編的な内容のようだ。魔法少女としての本来の活動についての話なのに、『番外編』になってしまう言うあたりに面白味を感じてしまうのだが、それはまあ置いといて。それにしても、今更になって魔法少女たちの明るく前向きでキュートな活躍が描かれることの意味は、なるほどいろいろと考えさせられるものがあった。本編において無残な死を遂げる魔法少女たちに、この物語集のような輝かしくも優しい瞬間があったことを描写することは、彼女たちの死を際立たせることになるではないか。しかし、それと同じくらい、”だからこそ”描く必要があったとも思う。それは無残な死を遂げる少女たちの日常を見ることで悪趣味で暗い喜びに浸る、と言うだけではないくて(そうした喜びを感じることは否定はしないけれど)、ここで描かれるからこそ”救い”になるのではないか、と言う想いだ。

この短編集、と言うか掌編集では、本編のバトルロイヤルでは欲望や愛憎が暴走していた魔法少女たちの本来の姿が描かれることになる。本来の姿と言うのは、絶望や恐怖で歪められていない姿、と言う意味だ。人間、追い詰められた時に本性が出る、みたいな言い方をされる時があるけど、個人的にそれが”その人間の真実”とはまったく思えない。それは単に人間の生存本能が表に出ているだけであって、本質とはまったく異なるものだと思う。本能で生きるだけなら、それは動物と変わらないのだし。”人間の”本質というのなら、それは理性とか知性とか、あるいはそう”優しさ”とか、そういうものこそが人間だと言える。人間だけが本能の抑圧から(完全ではないにせよ)離れてそれらを発揮できる存在なのだから(もちろん、極限状況下においてさえ理性や優しさを持ち続けることは素晴らしいことであり、それは誰にでも出来ることではないこと。それ自体は人間の尊厳や素晴らしさであるけれども、それが出来ないからと言って見下げるようなことではない。それはまったく別の話なのだ)。

エピソードの中で、魔法少女たちの華やかな活躍や、何でもない日常、あるいは凄惨な非日常の中で過ごす姿が活き活きと描かれている。魔法少女たちの喜びや悲しみや、時に困惑したり怒りをぶちまけたりしながらも、それでも彼女たちは彼女たちなりに生きた。その生のほとんどはすでに失われてしまっているとしても、それでも少女たちは生きていた。彼女たちの最後は、決して生前を肯定できるものではなくて、恐怖と絶望と憎悪の中で惨めに死んでいったものたちがほとんどであっただろう。死んでしまえばすべては終わり、それはもうどうしようもないことである。しかし、彼女たちが死んだという事実は変わらなくても、その”意味”を変えることは出来るのだ。彼女たちは無残に、そして無意味に死んだかもしれない。しかし、それでも、彼女たちには光り輝くような瞬間があって、その光を誰かのために使っているのだ。

例えば、ルーラと言う魔法少女がいた。彼女は高圧的でヒステリックで自己中心的な、実に問題のある人物だった。彼女は自分が生き残るために周囲を踏みつけにすることを躊躇わず、そしてその性情ゆえに足を救われ無様に死んだ。しかし、その性情は、同時に責任感の強さにもつながるものであって、魔法少女になって右も左もわからないでいた”たま”を救ったのは間違いなくルーラでもあった。スイムスイムを凶行に走らせたのも、結局はルーラのそういうところが影響を与えた結果であろう。彼女は確かに問題の多い人物であり、なんの同情も出来ない死を遂げた。その事実は変わらないだろう。しかし、それでも彼女は魔法少女であり、彼女なりに人を救いもしたのだ。そこに”意味”がある。ルーラの死そのものは不可逆であっても、彼女の死の意味は変化するのだ。彼女は何人かの人を助けて、そして死んだ。そういう”意味”が、新しく生まれる。

そうして、人間は、”生きた意味”を獲得していく生き物なのだろうと思うのだ。

|

« 『なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る』 | トップページ | 『世界征服』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/57537549

この記事へのトラックバック一覧です: 『魔法少女育成計画 episodes』:

« 『なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る』 | トップページ | 『世界征服』 »