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2013.05.24

『一年十組の奮闘(3) 絶対孤独のアンチテーゼ』

一年十組の奮闘(3) 絶対孤独のアンチテーゼ』(十文字青/MF文庫J)

大変打ち切り臭溢れる終わり方だったけど、最後まで作者らしいポップさがあって良かった。ポップと言ってもそれは単にオシャレと言う意味ではなくて、その内側に泥臭いまでの劣等感が潜んでいて、その上であえてポップに振る舞っているという感じ。少なくとも自分が好んでいる十文字青作品にはすべてそれがあって、そうした泥臭さがあるからこそポップに振る舞うことの切実さが描く価値があると思うのだ。

まあ、今回は主人公のテーマに決着をつける必要もあったせいか、非常に物語が圧縮されている感じがあって、そのせいで作者特有のドロドロとしたポップ感があんまり出ていなかったようではある(十文字青の作品は長ければ長いほどに根底にあるドロドロが熟成していくので、あまりライトノベルには向いているとは思えないのだが、それはまた別の話)。シリーズのヒロインらしきマリカは、結局、今回も脇役で終わってしまったし、主人公を描くことで精いっぱいだったのかもしれない。

ただ、みんなに仲良くして欲しい、という素朴な、それでいてこの上なく我儘な欲望を持っている主人公が初めて相手に殺意を抱くと言う展開はなかなか好きな展開だし、憎悪を感染させるイラカと言う少女の不気味さはこの上なく描かれているので、これはこれで悪くないと思う。ただ、今回の話だけだとイラカと対立しただけの話なので、ここから止揚されていくはずの物語こそ本番であるはずなのだ。憎悪と愛と言うのは対立するものであるけれど、重要なのはそれを継続することだ。一度の対立ですべてが決着する事柄などほとんどなくて、”対立から生まれる”ものを描くのが物語の持つ意味だと思うのだ。

たぶん、作者は”向こう側”について描くつもりがあって、その種がいくつも見えるだけに、ここで打ち切りと言うのはつらいものがある。なんとか続いてくれないものかと思いつつ、それは読者が考えるべき事かもしれないとも思うのだった。

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