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2013.01.23

『マグダラで眠れ』

マグダラで眠れ』(支倉凍砂/電撃文庫)

支倉凍砂最新作。今回の主人公は己の夢を追い求める錬金術師で、そのためならば何を犠牲にすることも覚悟していると言うかなり大人な主人公ではある。『狼と香辛料』の主人公は大人ぶっていても青い部分を持っていたのに対して、こちらは一見青臭く見えているにもかかわらず、根っこの部分はかなりドライなところがある。したがって、対となるヒロインもまた前作とは大きく異なる。具体的に何が違うのかと言うと…つまり、今回のヒロインはロリータです。いや、幼女というわけではなくて、無垢で無力で、それゆえに男を惑わせる魔性を併せ持つという意味で使っています。このヒロインの造形は、正直なところライトノベルとしてはかなり異質で、つまり、無力さ、無垢さが主人公の庇護の対象になるのではなく、むしろ主人公を脅かすものと描写されているのです。

ヒロインのフェネシスは修道女であり、錬金術師である主人公、クースラにとっては敵対的な存在であるが、それでもまだ子供に過ぎない。クースラにとってみれば、彼女を扱うのはそれこそ赤子の手をひねるよりも容易い。彼の一言、で一喜一憂するフェネシスは、敵と言うのはあまりにも歯応えがなさ過ぎて、なかなかにそう見るのは難しいようだ。クースラの手管を持ってすれば、彼女を弄ぶことも、あるいは惚れさせることさえも簡単なことで、それゆえにクースラは慎重にならざるを得ない。外道の錬金術師であるくせにクースラにはある種の規範を持っており、フェネシスと向き合うことは非常に注意を必要とすることのようなのだ。

クースラはフェネシスをからかいながらも、相棒となるウェランドと共に目的を追い求めていく。それはフェネシスには決して明かせないことだ。なぜなら、クースラとフェネシスの利害は一致していない。フェネシスを助けるためにはクースラは夢を諦めなければならず、それは決して彼には出来ないことなのだから。いかに規範を持っていても、夢のためならばそれを踏みにじることが出来る。クースラは根っからの錬金術師なのだ。

フェネシスはクースラと対峙する。クースラを追い詰めるために選んだ彼女の武器は、まさに彼女にしか持ちえないことだ。それは、彼女が無垢であり、無力であるということ。まさにそのことがクースラを追い詰める。自分が手を差し伸べなければ、この白い少女は踏み躙られることになる。それが彼女の武器であった。今までに幾度となく命の危険を冒してきたクースラにとって、この瞬間こそが最も追い詰められた瞬間であったことだろう。それほどの武器を、彼女を構えたのだった。

だが、クースラはその名が示す”利子”の通り、決して諦めず止まらない、合理の続く限り歩き続ける存在だ。そして合理とはなしえる選択肢の中で常に最善を目指すもの。すべてを救うことが出来るのなら、すべてを救うことを選択するものだ。結局、クースラはフェネシスを引っ張り上げる。それが彼にどんな意味を持つことになるのか。ただの気まぐれか、それとも彼女こそが姫なのか?それを決めるのはクースラ自身であるし、フェネシスもまた、いつか選択をすることを許されるのだろう。

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