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2013.01.10

『演じられたタイムトラベル』

演じられたタイムトラベル』(土橋真二郎/メディアワークス文庫)

作者のシリーズの中でも、トップクラスに”お金がかかっていない”ゲームになっているのが面白かった。舞台装置はただ広い空間に線が引かれただけの無味乾燥なもので、そこにはプレイヤーや読者の想像力を刺激するようなものは何一つない。”にもかかわらず”それでも人が死んでしまう厳然としたルールが存在しており、プレイヤーたちはルールの存在から”状況を想像していく”ことまで含めて委ねられているというのがひどく悪趣味なユーモアを感じるのだった。

例えばゾンビが存在するとして、目の前で人が食われる場面を見れば、理解できるか否かは別としても危機意識が生まれるはずだ。目の前の危険から逃れようという本能、それをどれだけ迅速に引き出すことが出来るかどうかが非常事態における人間のサバイバル力に直結している。しかし、目の前に青く点滅する円柱がゾンビだと言われても、人間はなかなか危機意識を持つことは難しい。それがゾンビなのだ、ルール上ではゾンビとして扱われるとしても、それを実感するためには”想像力”の助けが必要なのだ。目の前の円柱を、本物のゾンビだと思い込むだけの想像力の助けが。それが無くては生き延びるための危機意識を呼び覚ますことが出来ない。

舞台設定は無味乾燥で、敵役となるゾンビさえもその有様だ。だが、最初に書いたように”にもかかわらず”人は死ぬ。ゾンビに捕まれば食い殺され、タイムトラベルで矛盾が生じれば時空の捻じれに飲み込まれてしまう。目の前に引かれた何の変哲もない線は、しかし、紛れもなくショッピングモール以外の何物でもないのだ。それが”そうである”と想像しなくては、そこで身動きすることさえも出来ないまま、そうとは実感できないままにゾンビに食い殺される。

かと言って過剰に想像力を働かせると、今度は恐怖によるパニックを引き起こしてしまうことになる。最初の方はまだしも”ゲーム”として取り組んでいた主人公たちが、本当の怪物を幻視し、恐怖の中で暴走を始めていくことになり、そうして想像力の中にあったゲームの世界が現実として構築されていくことになる。本物の恐怖に突き動かされた彼らにとって、ただの円柱は紛れもない怪物のように見えるし、線で引かれただけの枠は本当のショッピングモールそのものとなる。彼らの目に映っているものは何一つ変化していないのにも関わらず、見ているものの”意味”が完全に変質してしまっている。本来あるべき現実を塗りつぶして、そこにはまったく別の現実が形を持つようになっているのだ。

さして重要ではない追記。最後の主人公とヒロインの関係のオチはちょっと意外な感じもあった。でも、よく考えるとあれで惹かれあったのは典型的なつり橋効果だったし、あんなゲームを作った奴らの手によって結び付けられるというのも業腹な話だ。いわゆるハリウッド的なものの逆を行ったということでしょうかね。

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