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2012.12.30

『人生 第4章』

人生 第4章』(川岸殴魚/ガガガ文庫)

今回の話のどこかで「格好つけた時点で格好良くはない」みたいなことを言っていたような気がするけど、これはけっこう重要なセリフなんじゃないかと思う。このシリーズにおいてだけではなく作者の作品において、このセリフの意味するところが重要な位置を占めているように思う。

『邪神大沼』の頃から顕著だったけど、作者はあえて「格好良さ」と言うものから意図的に離れようとしていた。大沼は主人公ではあったけれども、事態を解決するためになにか能動的な役割を果たしたことはないし、それによって周囲から称揚されたこともない。どこまでもその活躍は地味であり、報われることは少ない。けれども、彼はそれに挫けることはなく(めげることは多かったけれど)自分に出来る範囲で一生懸命に行動していたし、それをずっと見ていた少女だけはそれを理解していた。誰にも褒められなくても、それでも彼は自分のやるべきことをやっていた。おそらくそれが作者の考える「格好よさ」であるのだろう。

『人生』シリーズにおいても、それは踏まえられている。主人公はどこまで言っても平凡な男子生徒であり、何か彼が特筆すべき思考や行動を秘めているわけではない。本当の意味で、なんの取り柄もない少年でしかない。彼は高校生の水準からみてさえ特別なものを持っているわけではなくて、新聞部に降りかかる事件に対して有効な行動をとれるわけでもない(そもそも事件だって生徒会からの嫌がらせとか、その程度のものだ)。

しかし、自分などは思うのだが、能力のある人間がその能力を振るうことは、そんなのは当たり前、出来て当然のことではないのか?勇敢な男が率先して勇気を出すのは、それは確かに価値あることではあろうけど、それでも”すごい”ことでもなんでもないのではないか?だから自分はこう思う。臆病な人間が、ほんのわずかの勇気を振り絞ることは、本当に素晴らしいことなのだと。それは本人が決して出来なかったことを、勇敢にも(そうこれが本当の勇敢さなのだ)一歩踏み出したということなのだ。

この物語の主人公は、自他ともに認める平凡な男子高校生で、彼自身、ことさらに非凡になろうという意思も意欲もないようだ。それは克己心がないと見られがちではあるけど、それは自分を良く見せようという欲が少ないということでもある。他人に褒められたり他人よりも優位に立ったりすることにあんまり興味がない、そういうタイプなのだろう。

そして、そういうタイプである主人が新聞部に対する生徒会の嫌がらせに対して彼なりに行動を起こすことになる。これは彼の従妹や相談者たちにとっての問題であって、そうしたことに対して彼は行動をとらせることになる。と言っても生徒会長の前に強い態度で正対するぐらいのもので、その後の行動は別に大したことをするわけでもないのだが、しかし、たぶんそうした行動こそが”勇気”と言うものなのだ。普段控え目で自己主張をしない主人公は、あの瞬間だけ自分のスタンスを崩した。それが本編で言っている”ギャップ”であって、なぜギャップが生まれているのかと言えば、それが本来の彼自身ではありえない行動であるからに他ならない。

だからこそ、彼の行動は意味があるし、とても素晴らしいことなのだ。

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