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2012.12.07

『一年十組の奮闘(2)~その少女、神聖にして触れるべからず~』

一年十組の奮闘(2)~その少女、神聖にして触れるべからず~』(十文字青/MF文庫J)

主人公がヒロインの問題を解決して惚れられていくというハーレムラノベの王道的な設定でありながら、この立ち上るような十文字青らしさはどういうことだろう。素晴らしいですね。ライトノベルと自身の傾向の差異に苦しめられてきた『黒のストライカ』の経験が生きたということなのだろうか。どこかで自虐的に、自分はライトノベルに向いていない、みたいなことを書いていたと記憶しているけど、あれが一体なんだったのだろうと思わざるを得ない。いや、ライトノベルっぽい設定をきちんとしておきながら、中身は昔ながらの尖っていた頃の十文字青が残っている。これはつまり、作者も大人になったということなのかなあ。それが良いことなのか悪いことなのかはわからないし、興味もないが、このシリーズは長年のファンとしても期待していきたい。売れるといいなあ。

今回のヒロインはまんまATフィールド持ちの能力者なんだけど、いやあ、ATフィールドはやっぱチートだわ。使徒がエヴァでなけりゃ倒せないわけだ。無敵すぎるぜ。自身の心の壁、他者に対して絶対的な拒絶が具現化した能力を持つ来見坂つみきは、はた迷惑なことに他者との接触と求めて一年十組にやってくるわけだけど、それは彼女の能力と完全に矛盾している。他者に絶対に触れられることが出来ない能力を持つ彼女は、そもそも他者との接触ができないからだ。他者との接触は”交流”とも呼ばれるように、お互いのぶつかり合いと摩擦によって形作られていく。痛みによって適切な距離を保ちあうということでもある。それをつみきは理解しない。というより、彼女の能力によって理解できない。絶対不可侵の能力を持った彼女は、決して傷つかないし、誰にも止めることはできない。つまり、彼女の望みは誰にも妨げられることはできないのだ。これでは”交流”など生まれようはずもない。ただ彼女の言ったことが実現するだけだ。

これはおそらく彼女の能力の根本に”傷つけられたくない”というものがあって、それが彼女のあり方をゆがめてしまっている。彼女の本当の”傷”はまだ今回の話では明らかになっていないが、おそらく相当に他者に対して恐怖を抱く出来事があったのだろう。それでいながら、つみきは他者との接触に飢えている。単に触れられないという意味ではなく、他者との交流に飢餓している。それはあたかも周囲すべてを黄金に変える力を得ながら餓死したミダス王にも似て、他者から傷つけられない能力を持ったつみきはその能力によって狂いつつある。どんなわがままを言っても、どんなに暴虐にふるまったとしても、すべて彼女の思いのままになる能力。それは彼女を極限の孤独に落とし込んだのだった。

だから皆人が彼女に”勝つ”ことが出来たというのは、つまるところつみき自身の内面の問題であったということ。彼女自身の中に、他者と拒否する意思と他者を欲する意思があって、まあ皆人の能力の支えもあったにしろ、最終的に他者を欲している自分を認めたのは彼女自身の意思なのだ。結局、こうした問題は自身の考え方に還元されるもので、自分を救うことは自分にしかできない。それを突き付けたという意味では、皆人もなかなかに厳しいやつだなあ、と思ったのでした。

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