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2012.11.18

『ハンターダーク』

ハンターダーク』(秋田禎信/TOブックス)

主人公のハンターと、彼を含めたすべてのロボットたちは、己を自覚した瞬間から”廃棄”されている。人間に奉仕するために生まれたロボットでありながら、彼らは自らが無価値であると理解してしまっているのだった。ロボットたちにとって生まれた意味とは、常に他者によって与えられたものだ。だから、他者が無価値と判断したのであれば、彼らの生まれた意味は無意味でしかない。そんなロボットたちは、己の寄る辺を失ったまま油が降りしきるゴミの街を彷徨い続けている。

ハンターもまた己の価値を否定されたところから始まる。だが、彼は不思議なことに”己の価値を己で規定する”ことが出来た。”何のために生きるのか”と言うことを思考できる、稀有なロボットなのだった。彼の中にいるなにかは、ハンターに「始まれ、求めよ」と命じ、彼はその言葉通りに、求め続けるロボットとなった。彼が求めるものは唯一つ。己を支配することである。それは己の意味を己自身によって与えるということ。他者によって意味付けられる人造物の身でありながら、それでもなお自分によって意味付けること。それが己を支配することであって、そのとき命は一つの存在として世界と対峙できるのだ。

彼の欲求は常に自分の内側だけにある。理不尽な運命を強いる”天上”に対して、彼は特別な関心は抱かない。ただ「己を支配し、己を変える」ことだけが彼の関心事だ。それこそが世界と対峙する唯一の方法であるからだ。世界とは理不尽であり、個人の思うままにならないものであり、圧倒的な力をもってハンターたちを翻弄していく。世界から無意味と意味づけされた存在はいつまでも無意味として扱われ、抗う術はないのだった。しかし、どんな状況であっても剥奪されないものがある。それが”自己”だ。自分は自分であると規定し、規定した自分を世界に意味付けることが出来る。それは例え記憶を奪われたとしても、求めることを忘れなければ自分が消えることはないのだ。

ハンターは自分の求めるものをただストイックに求めていくのだが、その求めは仲間たちにも伝播していく。本来、個人の内面だけに過ぎなかった欲求は、仲間たちと共有されることで広がりを見せていくのだ。仲間たちも、ハンターと同様に、自分の求めるものによって自分を規定していこうとする。そうして”ハンターの世界”は拡大を続けていく。このまま彼の世界が広がっていくうちに”天上”の世界とも対立を続けていくことになるだろう。そうやって世界は変化していく。それがおそらく”世界を支配する”と言うことなのだ。

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