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2012.11.03

『大日本サムライガール(1)(2)(3)』

大日本サムライガール(1)(2)(3)』(至道流星/星海社)

『羽月莉音の帝国』ではヒロインの莉音が最強すぎてヒロインとして機能していないと言う問題があって、主人公(だと思うんだが…)の巳継がほぼ莉音の金魚の糞になっていた。まあ、これが問題なのかどうかは読み方によると思うのだが、ちょっと莉音が物語を進めるためのトリガーに徹していた感じはあったように思う。

今回のヒロインである神楽日毬も強烈な意思と行動力を秘めた至道ヒロインなのだが、一方で人間的に隙もすごく大きいところがある。生真面目が過ぎて生き方が一直線な上に世間知らずで浮世離れしている。人を動かすカリスマがある一方どうしようもない失敗も多いので、必然的に主人公である織葉颯斗が彼女を支えていかないといけない。一方で、颯斗の方も迷いや屈託があるので、それを日毬が風穴を開けていくと言う関係も生まれているのだ。

つまり、今回は日毬が独裁者を目指してトップアイドルを目指すと言うグランドストーリーに加えて、颯斗と日毬を中心にしたドラマが横軸として編みこまれており、非常に物語として端整になっていると思う。作者は経済と政治と言う大きなドラマをリアリティを持って描けるだけにキャラクターを中心にした小さな物語をなおざりにしていたところがあったように思っていただけに、良い意味で裏切られた感じだ。

とくに日毬は非常に魅力のあるヒロインだと思う。これは最初にも書いた通り、強靭な意志と圧倒的な行動力を持ちながら隙が多いというところで、やっぱり完璧超人よりも人間くさいところがある方が人は親近感を持てるものだ。それは天才の駄目なところを発見して安心すると言う凡人の嫉妬と裏腹のものではあって、まったく作者はあざといなあ、と思った。作者の「俺が本気になったら読者を萌えさせるヒロインなんて簡単に作れるんだぜ?」と言わんばかりである。さすがだ。

以下、巻ごとに簡単に感想。

一巻。日毬と颯斗が出会うの図。最初は右翼系ヒロインなんてどんなものなのかと思いつつ読んでみたが、日毬の感性そのものはごく普通であると言う作者のバランス感覚が良かった(まあ「俺が本気になったら~」という幻聴が聞こえなくもないが)。と言うか、世の中にはきちんと理解すれば別におかしなものではないと言うことはありふれていて、偏見とか差別と言うのは、実のところ対象のことをよく理解していないことから生じるものだ。が、それは別にどうでも良かった。まあ、とにかく、日毬が想像以上のちょろインぶりを発揮していて、それでいてさしてあざとく感じられないのだが、これは日毬が颯斗に依存しようとしない強さ(あるいは誇り)を持っているためだろう。個人的な好みではあるが、節度を持って自身の感情を制御できる人が好きだし、尊敬できる。その意味では、この時点で日毬の姉、凪紗がすごく好きだった。残念系ヒロインとしては妹を凌駕する逸材だぞ!

二巻。一巻で日毬が全国レベルで巻き起こした事件の後始末と、新ヒロインである朝霧千歳の登場。まあ、日毬に比べるとストレートな残念系ヒロインと言える。残念系と言うより、ポンコツ系ヒロインかもしれない。この辺りから颯斗の主人公性が爆発し始めてくる。一巻では日毬がすご過ぎて、ヒロインに救われるヘタレ主人公的な立ち位置になってしまったが、もともと社会人としてはきわめて有能な主人公が、プロダクションの経営から千歳の抱える問題の解決まで、八面六臂の大活躍だぜ。お前、片っ端からヒロインの(経済的)問題を解決しているけど、何?あんた上条さんにでもなるつもりなの?ハーレムメイカーなの?と言うわけで、ここで気がついたけど、わりと正統派なライトノベルでした。びっくりです。解決の仕方もスマートで、”当たり前に対処して当たり前に解決しました”感があって良いですね。問題をむやみに深刻に考えて深刻に解決するシークエンスはノーセンキュー。

三巻。キター!ついに凪紗がメインの話が来たぞ!とても嬉しい。もうこの辺りなってくると凪紗の残念ぶりがフィーバーしていて、なんつーか誰かが助けて上げないとヤバイ感がひしひしとしてくる。正直、一人でいることが好きなタイプを自活出来ているにも関わらず家から引っ張り出すことが正しいのかは疑問なんだが、このまま行くと悪い男にあっさり騙されそうだしな…。社会勉強、必要だよね。あとこの辺りから電つ…いや蒼通との仕事が増えてきていて、現実を見ると評判の悪い電つ…じゃない蒼通のあこぎな商売を見せつつ、その力の有用性と言った明るい側面を見せているのが良い。天下りとか世間では非難される行為も、それがなぜなくならないというと、事業を行っていく上で有用だからと言う身も蓋も無いからこそむしろ納得のいく。この辺りは作者なりのバランス感覚だろう。ただ非難するのではなく、それがなぜ存在するのかを考えるべきなんだ。そうでなければ世界を変えることなんて出来ない、ってことなんだろうな。

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