『RPG W(・∀・)RLD(12) ‐ろーぷれ・わーるど‐』
『RPG W(・∀・)RLD(12) ‐ろーぷれ・わーるど‐』(吉村夜/富士見ファンタジア文庫)
相変わらずこの手のRPG好きの欲望をあざとく突いてくるいやらしさが良かった(褒めています)。ゲーマーの妄想や欲望をあざとく突いてくるという意味ではソードアートオンラインと(その意匠だけではなく)良く似ているのだが、こちらの方がより古臭いゲーマー、例えば初期とドラクエやFFをやっていて、今ではスカイリムとかあの辺のオープンワールドを喜んでいるようなタイプを狙い撃ちしている感じ(例えがやたらと具体的なのは自分がそうだからです)。こういう”あざとさ”っての正直下品だと思うのだが、別に上品なのが正しいと言うわけではないのでこれはこれで良いと思う。まあ、気にならないと言うと嘘になるのだが、これは個人的な信条みたいなものだしな。
ところで、今まで吉村夜と言うのは非常に啓蒙的な作家だ、ということを書いてきたけれど、この人の啓蒙は必ずしも道徳的という事ではないのだ、とも思った。まあ、『スクールデモクラシー』を読んでいるのに何を今更と言う気もするが、それはともかく。道徳、つまり正義とか悪とかというのはただのレッテルに過ぎないという事で、実際には世の中に正義も悪もないのだということが描かれているように思える。と言っても、それぐらいなら自分にとっては目新しい考え方ではないんだけど、作者の場合それをもっとえげつなくも身も蓋もない認識をしているような気がするのだった。
どういうことか簡単に説明すると、吉村夜の描く物語の傾向として、”正しい選択”が”正しい結果”を生み出さないということがある。むしろ主人公が積極的に”間違った選択”をしたことで”正しい結果”を生み出していることさえある。主人公のやっていることは道徳的に考えればありえない選択だったりすることが多くて、しかし、物語はそれを肯定してしまう。『スクールデモクラシー』なんて、まさにそういう話だった。(他には『真・女神転生if…―魔界のジン』の結末には非常に驚かされもした)。
自分は、吉村夜と言う作家のそういうところにずっと煮え切らない感覚があった。”正しい”ことが人を救わないのならば、それではなんのために人は生きているのか。昔の自分んはそこまで物事を考えていたわけえではないが、たぶんそういう怒りと、同じくらい無視できないものがあったのだろう(でないとこんなに長く読者をやっていない)。このあたりの納得できなさはつい最近まで続いていて(つまり、吉村作品を読むたびに怒っていて)、しかし、最近になって少し考えが変わってきたかもしれない。少なくとも、”作者は確信を持ってこの物語を描いている”ということがわかった、と言うか認められるようになったのだ。意図的に”間違った選択”を主人公にさせているのかもしれない、と。
その意図がどんなものかはまだ良く分からないが、少なくとも”正しさ”に対する反発のようなものがあるようには思えるのだ。つまり”「正しい人間が勝つ」などというのはファンタジー”でしかないということだ。現実とは強いものあるいは運の良いものが勝つのであって、そこには”正しさ”が介在しない理不尽な世界であるということであり、”正義は勝つ”などと言うのは最悪の嘘でしかないのだと。しかし、それが作者の意図ではないうように思える。その認識だけではただのペシミズムに過ぎないからだ。作者の考えていることはそこから少し踏み出している。おそらくもっとも重要なテーマとは、そうした”正しさが勝利できない世界で正しさが勝利するためにはどうすれば良いのか”、というアプローチなのではないかと思うのだ。
ここに吉村夜の描く”啓蒙”の形が見えてくるように思える。世界には「正義が勝つ」などと言う保障がまるでないのならば、”勝てる正義”を作らなくてはならないということ。そして”正義が勝つ”ためには、ときに人を騙し、傷つけ、悪を為すことさせも選択しなくてはならないということ。つまり、必ず勝つ正義など存在しないのだから、正義が必ず勝つためには、勝つための戦略と、そして覚悟が必要なのだ。それは自分から”間違った選択”を行う覚悟である。作者の描いているのこととは、たぶん、そういうことなんじゃないかと思う。
そこでは、”正義”の意味と言うものがさらに重要な問題になる。果たしてそこまでして貫く正義が果たして客観的な意味でも正義となりえるのか?まあ、”客観的”などと言うのは思考停止と非常に良く似た言葉であるけれど、自分を信じることの難しさからはどうしても避けられない話ではある。全面的に受け入れられるものでもないかもしれない。しかし、”勝つための正義”というアプローチは、正義のあり方としては決して間違ってはいないのだとも、自分には思える。
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