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2012.10.16

『ボンクラーズ、ドントクライ』

ボンクラーズ、ドントクライ』(大樹連司/ガガガ文庫)

自分は物語というものが大好きなのだけど、ときどきどうしようもなくやりきれなくなることがある。物語の魅力のひとつは現実を捨象することで物事を純粋に描くことが出来るということだと思っているのだけど、それは同時に純粋ゆえに語られない部分を持つ、ということでもある。それは別に悪いことではなくて、そもそも現実をそのまま語る必要はないものだ。現実のことはそのまま現実で体験すれば良いのであって、物語と言うのは複雑な現実からなんらかの意味を見出そうという取り組みのことを指すのだから、いくつかの出来事を筋道がつくように並べて行くことで、そこから意味を汲み取ろうとするのは当然のことだとさえ思う。

しかし、物事に筋道をつけるということは、同時にそこから零れ落ちるものも存在するということでもある。例えばそれは、決して主人公にはなれない親友Aのような。彼は主人公とヒロインが運命的に出会い、交流を深め、時に対立し、それでもお互いを意識していくドラマを、ただ見ていることしか出来なかった。彼は二人の関係に何がしかの影響を与えられたというわけでもなかった。三角関係のような、物語をつむぐことさえも出来ない。彼の存在は、物語としてみれば、まったくの無価値である。彼のような脇役は、せいぜい主人公が悩み苦しむ姿を遠くから見ているか、もっとも良いケースでさえ、主人公を勇気付けたりするきっかけを生むことが出来るくらいだろう。もちろん、脇役にだって苦しみがあり、葛藤がある。好きな女の子がいて、優れた友人に嫉妬するような当たり前の苦しみが。ただ、彼の苦しみには誰も興味を抱かないだけだ。みんなが気にするのは学園一の奇人である男の恋の物語であって、彼の物語は望まれていないのだった。それが、この作品の主人公の物語なのだ。

別にこれはメタの話をしているわけじゃなくて、普通に現実にあることだ。われわれが現実だと思っていることは、実際には現実そのままというわけじゃない。自分自身の主観、思い込み、勘違いが現実を捻じ曲げていく。そして自分以外の人間にもそれぞれの主観があるとすれば、現実というのは嘘と幻で出来ているようなものだ。極論だが、人間はその中から自分にとってもっとも都合の良い”物語”を選択しているに過ぎない、とも言える。人間が現実を解釈する技術、それが”物語”というものであって、それは”嘘”によって紡ぎあげられていくのだ。

だから主人公は”嘘”をつく。親友と好きな少女のために、二人の”美しい恋物語”を完成させるために嘘をついた。自身の中にあるドロドロとした、物語を破壊するようなどす黒いものを隠し、”主人公を後押しする親友A”として、彼は精一杯に振舞った。それは彼の怯懦であろうか?卑怯な臆病者のすることであっただろうか?だが、彼が”自分の親友と好きな女の子の恋物語”を誰よりも守りたいと思ったことは確かだ。彼はすべてを捨ててでもその物語を守りたかった。それが自分自身の想いを踏みにじることであったとしても、それでも本当に大切なものだったのだ。

畢竟、物語と言うのは”嘘”なのだ。正しい物語であるほど”嘘”が含まれている。なぜなら世界は正しく整理されてはいないからだ。正しく整理されていないものが正しく整理されているように見えるのならば、それは当然”嘘”である。そして、世の中には物語が満ち溢れている。フィクションの話ではなく、現実の話だ。TVではひっきりなしに事件を語り続けている。クラスメイトは誰それの恋バナに花を咲かせている。担任や上司に対する陰口。彼らの語る言葉の中では、まるで”正義”と”悪”が実在しているように見える。どこかに悪い人間がいて、どこかで正義が行われているように言う。しかし、それは物語だ。人間が理解しやすいように、分かりやすく物事を整理された、あるいは主観によって歪められたものに過ぎない。そこには真実などはなく、それに心地よいと思う人間にとっての物語でしかない。そして、その物語の一つ一つに、この『ボンクラーズ、ドントクライ』の主人公のような”嘘”で物語を支えている人がいて、同じように傷ついているのかもしれない。

と言うこれもまた僕の主観によって歪められた物語に過ぎないのだろうがね。

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