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2012.10.31

『ベン・トー(9.5) 箸休め~濃厚味わいベン・トー~』

ベン・トー(9.5) 箸休め~濃厚味わいベン・トー~』(アサウラ/スーパーダッシュ文庫)

ベン・トーシリーズの登場人物たちはみんな真剣に真面目、そして一生懸命にやっているのが良いですね。それも一般的にはくだらない、なんの価値もないことに対して真剣に取り組んでいると言うのがなお良い。世の中には世間から評価されることしか取り組まない人がいて、そういう人にとっては彼らのやっていることは無駄の一言に尽きるのだろうけど、そういう世間の目と言うものに対して、彼らがそれでも自分のやっていることに恥じないでいるのはけっこう難しいことだ。多数派というのは別にそれ自体はすごいことでも偉いことでもないのに、なぜか少数派を見下す傾向に支配されてしまいがちだからね。そういう、一般的には評価されない物事に全力で取り組む姿をこれだけ魅力的に描けるというのはそれだけでも好ましいことだと思うのでした。

そういう少数派に対する作者の視線は、今回の短編集でも存分に発揮されていますね。と言うか、これを書くためにざっと読み直してみると、明らかに少数派のための物語になっているような気がしてきました。佐藤とその悪友たちの凄まじくマニアックなフェティシズムのオンパレードをはじめとして、ハードゲイマッチョ小説を好む白粉の妄想とイベント参加の話、そして白粉に対する感情を秘める白梅の独白。どれも一般的に言えば少数派であり、理解の無い層からは確実に偏見と嫌悪を持って扱われる分野の物語になっているように思います。単純なコメディとしては、明らかにこのあたりの部分は浮いていると言うか、もう少しマイルドなものであっても物語にはそれほど支障はないとも思えます。まあ、ここまでベン・トーを読み続けている人で”引く”ような人はいないでしょうけど、それでも”ついていけない”と感じる人はいないとも限らない。だから、たぶんこれは作者のこだわりなんでしょうね。決して彼らのやっていることは万人が受け入れられることではないけど、だからこそ、と言うか。

彼らは自分のやっていることが世間から白眼視されることは分かっていて、それでもなお楽しそうにやっている。佐藤なんかは寮の友達同士でお互いに理解出来ない部分も含めて受け入れてくれるから救われているけど、白粉や白梅は大変でしょうね。白梅は昔からヘビィに苛められていた過去があるし、白梅については白梅本人にさえ相談できない。それでもなんとか彼女たちは傷つきながらも生きてきたし、これからも誇りを持って生きていくのだろう(彼女たちは、彼女たちの本当の姿を知っても態度が変わらない佐藤にかなり救われている部分もあると思う)。

ベン・トーの登場人物たちがみんな真剣で真面目で一生懸命と言うのは、やっぱりそういう少数派であると言う自覚と、それでも自分に誇りを持って生きていこうとする、ある種絶望的な覚悟が根底にあるからなんでしょうね。我々の生きている世界は、ただ自分らしく生きようとするだけで傷つけられる世界なのであり、そこでサバイバルをしていくためには全力にならざるを得ない。半額弁当如きに人生をかけている姿は明らかに滑稽ではあるのだけど、それは真剣であることとの裏返しなんですね。真剣であることは、その対象に理解のない層からは得てして滑稽に見えるものです。それを滑稽だと思うような人は、自分には真剣になる対象がないか、あるいは想像力が足りていないかのどちらかです。梗(沢桔姉妹の姉の方)が元野球少年に説教をしていたみたいにね。自分に譲れないものがあるのなら、他人にも譲れないものがあると想像するぐらい、誰にも出来ることなんだから。

結論、”他人を馬鹿にしても良いのは、自分が馬鹿にされる覚悟のあるやつだけだ”。要するにそういうことです。問題は、他人を馬鹿にする意図はなくても、無意識に相手を見下しているケースも多いってことなんだけども(梗に説教された元野球少年なんかはまさにそれだ)。

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