『バカとテストと召喚獣(10.5)』
『バカとテストと召喚獣(10.5)』(井上堅二/ファミ通文庫)
作者の短編の上手さに感心してしまった。いや、上手いのかどうかちょっと判断できないのだが、アイディアを投入してそれを転がしていくのがとても自然なのだった。最初に掲げたテーマやアイディアが明確で、それを変転させていく感じがすごく良かった。ライトノベルで短編の上手い人というのは決して多くはない印象なのだけど、作者はただキャラクターの魅力に頼りきることなく、どのようにすればキャラクターを魅力的に出来るのかという点に常に心を砕いているように思えるのだった。
とくにすごい、と言うか唖然とさせられてしまったのが「僕と雄二の危ない黒魔術」だ。人格入れ替わりと言えば使い古されきったネタなのだけど、入れ替わりが二重に三重に、それどころかさらに繰り返されることによって、凄まじい勢いで入れ替わり状態が変転していくあたりがすごく面白かった。ブレーキが壊れていると言うか、もうどこまでエスカレートするのかわからん、と言うあたりが。ギリシア喜劇かお前らは。秀吉がデウスエクスマキナとして事態を収拾するあたりもそれっぽい。
順番が前後してしまったけれども、「僕と兄さんと謎の抱き枕」は、久保くんの弟が登場してD組を中心にしてキャラクターたちの外から見た姿を描いていると言う話で、やっぱり客観的に見てあの時空はおかしい(つまり、ギャグ漫画時空であるという)ことが強調されたり、明久のやっていることはやっぱりヒーローなんだということが見えたりしている。
「僕と未来の召喚獣」や「私とウサギと仄かな初恋」も同じようにキャラクターを魅力的に見せるためのお題があって上手く動かしているように思う。ただ、さすがにそろそろネタが苦しくなっているのか、やっていることが以前の話のテーマの繰り返しであったりするところもあるのだけど、それを安定感と取るか新鮮さが足りないと考えるのかは人それぞれかもしれない。個人的には、繰り返し語ることでしか語れないものもあると思うし、退屈であるとは決して言えないと思っていて、繰り返しになりつつも、少しずつ対応が違うところの揺らぎを見たり、逆に変わっていないものを確かめたりするのも、悪くないと思う。もっとも、こういうのは人気シリーズだから許されるというところもあるんだろうけど。
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