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2012.09.23

『スワロウテイル序章/人工処女受胎』

スワロウテイル序章/人工処女受胎』(藤真千歳/ハヤカワ文庫JA)

正直なところ、このシリーズについては自分の中で持て余していたところがあって、と言うのは、このシリーズでは一体なにも目的として物語を紡いでいるのか今ひとつわかっていなかったのだった。SF的に詳細に設定された世界や、その中でさまざまなルールに縛られている登場人物たちが繰り広げる物語、そういうものだと理解していても、どこか中心部分というか根っ子のあたりが良く分からない感じがあって、おかげで過去作品の感想を読み返してみると、そのあたりの途方に暮れた感じがありありと出ているのだった。

しかし、今回の話を読んで、作者の考えていることが少しだけ見えてきたような気がする。考えていることと言うよりも、”何を描きたいのか”というところかもしれないけど、とにかくようやく藤真千歳と言う”作家を読む”入り口に立てた感じ。まあ、大袈裟な言い方をしているけど、ようするに作品のどこを楽しめばいいのかが自分なりに理解できたという事だ。今まで楽しめなかったか?と言われそうだけど、面白いことは面白いのだけど、何を面白がっているのか自分でも良く分からなかったのだ(ただの言い訳だけれども)。

おそらく、作者が描いているのは”人工的に作り出された少女”についてのことなのだろう。人工妖精(フィギュア)と作中で呼ばれるそれは、今まではただのSF的なガジェットなのかと思っていたのだが、むしろこれは”人工妖精を描くためだけにSF設定がある”という事なのだ。あらゆる設定や事件、登場人物は、それを描くために存在している。そう考えると、自分の中ですっきりするものがあった。これは”人間”の物語ではなく、”人間に作り出された少女”の物語なのだ。

ここで”人工妖精”についてもう少し考えてみよう。彼女たちは人間の手で作り出された生命であって、そこには常に意図が存在している。そして、彼女らにとってその”意図”は決して覆すことの出来ない絶対原則として存在しており、そこに作り物としての彼女らの葛藤が存在するのだ。彼女らはどこまでの”人間のための道具”であり、それと同時に”少女”でもあって、どこまでも男にとって忠実な伴侶であり、男に陵辱されるために生まれる娼婦でもあるのだ。そこには道具的存在としての少女という構図があり、それはどこか醜悪であり、耽美であるように思える。

彼女たちはそうした自分たちの運命を従容として受け入れていくが、時にそこから外れる者たちもいるのだ。それは彼女たちの精一杯の悲鳴であり、自分たちを生み出し、消費しようとする男たちに対する憎悪であると同時に、切ないまでの恋歌でもある。「なぜ自分はこのように生まれたのか」と言う問いは人間にも馴染み深い問いではあるが、彼女たちにとって問題はさらに深刻だ。己の創造主が目の前に存在しているのだから。自分に運命を与えた存在が、手の届くところにいるのだから。だからこそ己に強いられた運命に反逆を試みていく少女たちが生まれてくる。世界に対して押し付けられた自己そのものに対する憎悪を持った少女たち、それが揚羽が対峙することになる”敵”である。

しかし、揚羽自身は、己が殺害することになる少女たちについて、深く考えることはない。揚羽によって排除される彼女たちこそが、人間によって押し付けられた運命の”被害者”であるはずなのだが、揚羽は冷酷にも少女たちと刈り取ってゆくのだ。彼女にとっては、異分子となった少女たちを殺害することそのものが、あらゆる運命を与えられなかった自身の存在意義の代わりでもあるからだ(揚羽は人工少女としてのあらゆる運命を持たない存在であり、それこそが彼女の特異性なのだとも言える)。

この物語は、そのようにして生まれてしまった人工妖精たちが、己に与えられた運命にもがく姿が描かれている。揚羽も、彼女に排除される少女たちも、人間によって運命を与えられたことに対して疑義を抱いていると言う点では同一の存在なのだ。彼女たちは、自分に与えられた運命に対して、自分なりの意思を突きつけようしているのだが、それによって彼女たちは苦しみ続ける。苦しむことが彼女たちの存在意義であるかのようだ。いつか自分の声が届くのか、あるいは運命に押しつぶされるときまで、造られしものとしての少女たちは、傷だらけのまま歩いていくしかないのだろう。

それこそが”人間によって作られた少女”たちの美しさであり、儚さであり、強さであるようにも思えるのだった。

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