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2012.08.09

『神林長平トリビュート』

神林長平トリビュート』(原作:神林長平/ハヤカワ文庫JA)

たしかハードカバーで買っていたはずなのだが、積読のままどっかに行ってしまったので、文庫版を買いなおした。いや、探せばあるねんで?あの辺のダンボールが怪しいやで?けど、同じようなダンボールが三箱ほど上に乗っかっているから取り出すのがめんどくせえ、なんてことをちょっと思っただけなんやで?(うぜえ)

しかし、神林長平も若手作家によってトリビュートされる作家になったのだと思うと、なかなかに感慨深くもありつつ、なるほどと納得するところだ。などと言う自分はここ5年ぐらいの間で読み始めたにわか神林ファンではあるけど、執拗に内面と外面の結び付きを描き続ける神林作品の魅力は、人間の内面が変化しない以上、普遍性のある題材だと思うのだった。

以下、各話感想。

「狐と踊れ」(桜坂洋)
胃袋が独自の意識を持ってしまった世界を、人間の体から飛び出した胃袋の視点から描いたアクション格闘ロマン。人間の一器官というアイデンティティを失ってしまった胃袋、フムンは戦いの果てに何を見るのか、と言う話。うん、まあ、だからどーしたという感じは無きにしも非ずだけど、自分の存在証明を得るためには戦わなければならないのだが、それによって勝ち取ったものが本当に存在証明になりえるのか?というところまで手を伸ばしている。勝って手に入れても、それは結局のところ誰もが手に入れられる普遍物に過ぎなくて、本当に自分自身を証明するためには、そうした闘争とは別のところにあるんじゃないか、という事かもしれない。

「七胴落とし」(辻村深月)
子供の世界は大人には見えないし、大人になってしまえば失ってしまう、というところで大友克洋の童夢を思い出した。すっかり大人になってしまった自分が、子供の頃のことを思い出すと、どうしても断片的になってしまっていて、当時感じていたはずの情感が伴わないところがあって、そこではやはり子供の世界は失われてしまっている。原典の『七胴落とし』もそういう話だけど、こっちはずいぶん優しい話だな。

「完璧な涙」(仁木稔)
原典のアウトサイドストーリーと言った感じ。もう少し原典をぶっ壊してもいいんじゃないかと思うけど、あんまり壊したくなかったのかな。最後の「初めて再会する見知らぬ恋人」のイメージが書きたかったのかもしれない。SFメロドラマですなあ。

「死して咲く花、実のある夢」(円城塔)
最初に読んだときはなにがなんだか分からなかったけど、二回目でうっすらと意味がわかった。まあしかし、人間にはアクセスできないとこかの箱の中にいる誰かさんが、せっせと記述しては出力してくれるモノ、と言うのは面白かった。それは生命と呼ばれるもので、けれども観測してしまったことで、”死”が確定してしまったと。生と死は不可分のものではなくて、それぞれ断ち切られた状態であるというのは不思議だった。不思議だと思う自分もちょっと不思議だ。生と死って、考えてみれば別物だよな。なんで同じものだと思っていたんだろう。ぜんぜん関係ないけど、魂を見たことも触れたことも嗅いだこともない自分としては、主人公の言っていることの方がしっくりくるな。そういうものなのだ。

「魂の駆動体」(森深紅)
ひーノスタルジー。でもノスタルジーって言ったら年寄りの専売特許とわけじゃねーと思うんだけどなあ。若者だってノスタルジーに浸る権利があってもいいと思わない?

「敵は海賊」(虚淵玄)
ウロブチ先生の手にかかれば、カーリー・ドゥルガーだって女の情念ドロドロです。純真無垢だったカーリーさんが、悪い雰囲気を漂わせた海賊王ヨウメイ(漢字が出ない)の悪辣な手口によってメロメロにされてしまう。ヨウメイはマジで女の敵。言われるがままに悪女に落ちていくカーリーさんの姿にはちょっと萌える。

「我語りて世界あり」(元長柾木)
少女のエゴイズムとセカイとバトルをしていて、なんと言うかバカ小説寸前。けどちょっと切ないところもあるような。少女ってのは周囲から抑圧(あるいはその逆か)されるもので、それに立ち向かうためにはひたすらに噛み付き、傲岸に振舞わなければいけない。そうしなければ、セカイに食われてしまう。僕にこういうの嫌いなんですが、まあ僕は少女じゃないし、むしろ少女に殺されるタイプの人間だから、当然と言えば当然だ。

「言葉使い師」(海猫沢めろん)
書を捨てて町に出よう!一言で言うとそんな感じ。言葉を絶対視することをやめて、その意味を覚えていく。そして意味はいつしか変質して別の何かになっていくのだろうけれど、それが言葉の本質であると。つまり「いつしか意味を失うこと」そのものが言葉の意味である、というようなことかもしれない。失われることに意味がある、とね。いろいろ現実に当てはまりそうな話だけど、当てはめちゃあ興醒めな話なんで、厳禁です。

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