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2012.08.07

『筋肉の神マッスル』

筋肉の神マッスル』(佐藤ケイ/電撃文庫)

佐藤ケイという作家は極めて理詰めで物語を作っているという印象があって、今回の話もまたその印象に違わぬものだった。筋肉、というキーワードで物語を作りつつ、主人公の動機からその成長、立ち向かうべき試練の存在などが緻密に組み合わされている感触があって、なんとも言えない安心感が感じられるのだ。その分、あまりにも端正に過ぎて、どうも自分が語るべき余地があるような気がしないのだけど、それに文句をつける筋合いのものでもない。というか、この作家の作品に対してはいつも同じようなことを感じているのだが、綺麗な工芸品を前にしたように、ただ「すげえなあ…」と感心するしかないのだった。感心すると書いたけれども、これはイコール面白いということではなくて(と言ってもネガティブな意味ではなく)、面白いと思う前にその職人芸に驚かされる感じ。

個人的に良いと思ったところは、主人公の動機をエロ一直線、おっぱい様に設定しておきながら、ヒロインが貧乳という設定にしているところ。まあ、別にそういうヒロインが珍しいわけではない、どころか世に氾濫していると言ってもいいのだが、その動機の関連のさせ方が端正なのだと思う。主人公はおっぱいがとにかく好きで、その結果、貧乳であるヒロインに対してかなりぞんざいな態度をとるのだけど、それゆえにクライマックスでヒロインを助ける主人公の動機には、エロは一切介在していない純粋なものだという事がはっきりと分かるというところ見せ方があって、キャラクター小説においてキャラを嫌味なく描いているところが良かった。これを少しでも”あざとく”描こうとする(主人公をカッコよく描こうとする)と途端にベタになってしまうのだけど、そういうあざとさがあまり感じられず、ただ自然なのだった。

他にも良いな、と思ったところはいくつもあって、きりがないのでほどほどにするけど、例えば冒頭において、猿神によってとある地方都市に起きた異常事態が淡々と描かれていく描写がなんとも好ましい。緻密なのにバカバカしく、それでいてあまりに深刻な描写になっている上に、文字が描写の中に詰め込まれている感じも良くて、こういう文章にはどうも弱い自分がいる。無条件で受け入れてしまいたくなるのだ。

結局のところ、佐藤ケイ作品は、自分の中では「面白がる」作品と言うよりも、「愛でる」作品の位置付けに近くて、ただ眺めているだけで、なんとも言えぬ安堵感を覚えるのだった。こういう楽しみ方をしている時点で、自分も歳と取ったんだなと思わなくもないけどね。

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