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2012.08.19

『南極点のピアピア動画』

南極点のピアピア動画』(野尻抱介/ハヤカワ文庫JA)

理系ボンクラ小説と言うのがピッタリくる作品だった。ボンクラと言ってしまいたくなる理由は、非常に趣味的であり、さらにその趣味性に全能性が付与されていると言う意味で、非常に強い肯定感が作品全体から感じられるのだ。それは人間に対する信頼と言うか、もっと言えば世界とか運命とか、あるいは未来と言ったものに対する信頼が満ちている。物事は常に収支があっているものであり、正しい行為には正しい結果が返るのだ、と言うような楽観的で健全な倫理観が根底に流れているのだ。常識を逸脱した判断やアイディアがあったとしても、それが正しいことなのであればかならず報いがある、とでも言うような。そして、それは未来を見る目としては正しいのだと思う。と言うか、未来に期待するというのは、ある種の楽観に身をゆだねるという事であり、そうでなければ未来を考えることなんて出来ないのだと思うからだ。

以下、各話感想。

「南極点とピアピア動画」
ピアピア工場の存在がマジですごい。って言うか、なんだこれは?工業製品が自己改造を繰り返して進化していくようなものなんじゃないだろうか。まあ、イメージは分かりやすいし面白いとは思うんだけど。でも、こういう考え方の延長線上に面白い事が起こりそうな気もするな。アメリカだったら絶対暗ーいSFになっていたような題材だけど、それを面白おかしい希望に満ちた物語に寄与しているあたりが作者らしいし、なにより理系の人って感じがする。

「コンビニエンスなピアピア動画」
こういう作品を読むと、自分の価値観がいかに悲観に満ちているのが良く分かる。まさかコンビニエンスストアの販売形態に夢や希望や未来の光を見出す価値観があるとは想像さえしていなかったよ……。なるほど、明るい未来を考えると言うのは、こういう風にやるのだな。勉強になります。あと、真空状態で生きる蜘蛛の発見から軌道エレベーターの構築までが、市井の井戸端会議レベルの話し合いで成立していく展開には戦慄さえ覚えますね。確かにネットは世界を変えてはいるけどさ……。

「歌う潜水艦とピアピア動画」
人間は、と言うか日本人はほんと人外ヒロインが大好きだよな。もちろん自分も大好きだけどさ。だからこそ近年の初音ミク人気と言うのがあるわけで、ああいうバーチャルにしか存在しえない現実から遊離した存在さえも、本当に意味で愛せる力と言うのは、まあ正直なところ、個人的にはあまり好きにはなれないんだけど、その力の存在だけは認めざるを得ない。これぐらいの力がないと、万物に神が宿る、なんていう神話を許容できる精神性は宿らないよね。日本人は昔から、現実的非現実的を問わず、万物に人格の実存を信じ愛し続けてきた実績がある。初音ミクを見ていると、そういう事を思い出すことが出来て、どこか良い気分になれるんだ。

「星間文明とピアピア動画」
そうそう、これですよ。異星人のインターフェイスを平然とした顔で受け入れてしまうこの楽観論。相手が地球侵略を目論んでいたらどうするんだ、と言う平凡な意見を一蹴する力がそこにはある。個人的には、こういう風に受け入れてしまうのは論理的じゃないし、ありえないと思うんだけど、このような楽観論こそが未来を夢見るってことなんだよな。まあ、実のところ個人的な話をすれば、長門が宇宙から突然やってきたら普通に受け入れてしまいそうなラノベ脳な自分も同類だとは思うんだけど。いろいろ事情があって、もしかしたら人間を裏から監視しているのかもしれないけど、まあ別にいいじゃない可愛ければ、みたいな感覚は自分にもあって、このあたりの感覚が理解できる人ってのはどれくらいいるんだろうね?この楽観論がありえないって思っている自分の認識が間違っているのかな?案外、簡単にみんな受け入れてしまうのかねー。

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