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2012.08.13

『幻獣坐(2)The Ice Edge』

幻獣坐(2)The Ice Edge』(三雲岳斗/講談社ノベルス)

前巻においては、主人公とヒロインの関係が一方通行的なものとして描かれていたが、今巻においてはいささか変化しているように思えた。主人公が情報を独占することでヒロインを思い通りに動かしているように見えるのは前巻と変わらないのだが、実のところ主人公はヒロインの思考のすべてを把握しているわけではない。また、一方的に操られているように見えるヒロインも、主人公をまるで把握していないわけではない。むしろ、主人公の人間性については、本人も理解していない深い部分を理解しつつあって、主人公が彼女を抑え続けることの困難さが示されているが、それとはまた異なる”信頼関係”のようなものもまた、そこにはあるのだ。

しかし、一見したところ二人の関係は信頼関係とは程遠いところにあるように思える。ヒロインは主人公を信頼しているように見えるが、それは主人公の真意を知らないからこそ信頼しているのであって、主人公がヒロインに積極的に殺人の道具として使おうとしていることを知ったならば、今の信頼はすぐに壊れることだろう。主人公は、前述した通り、そもそもヒロインを道具として使うことが第一である。彼の行動は、ヒロインをいかに自分の都合の良いように動かしていくことであって、それは信頼とは言えないものだ。むしろ、もう一人の幻獣坐とそのパートナーの関係を見れば、主人公たちの関係は歪なものであるのは明らかだ。

だが、それでも自分は、この二人にはある種の通じた感覚があるように思う。例えば、主人公が講じた最後の策は、ヒロインが主人公の言葉を絶対に信じるという事が前提になっているように。彼女が一瞬でも彼を疑ったのならば、その瞬間、主人公は殺されていただろう。そういう策を咄嗟に実行したという時点で、主人公にとって彼女はただの道具ではない(少なくとも信頼している道具ではある)。またヒロインの方も主人公について盲目的に信じているわけではない。主人公からは多くの情報を隠され、彼の真意を知らぬままであろうとも、それでも彼の行動や言動を、どこか冷静に受け止めている。それによって、「主人公は手段を選ばぬ危険な人物である」という事を理解しつつ、その上で信じることを選んでいるのだ。それはただ操られるものの態度ではなく、状況次第では相手を”食い破る”意思を持ち合わせているという事でもある。

二人の関係は、一般的な信頼関係とは異なっているが、まぎれもなく自らの意思でお互いを求めている。それは無償の信頼関係ではないかもしれないが、人間は”不信”と”誤解”からでも信頼を生み出すことが出来るもので、それは決して他の信頼関係と劣っているものとは限らないと思うのだ(この二人の関係がそうなるかどうかは分からないが)。

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