« 『筋肉の神マッスル』 | トップページ | 『神林長平トリビュート』 »

2012.08.08

『スクール・デモクラシー!(2)』

スクール・デモクラシー!(2)』(吉村夜/講談社ラノベ文庫)

前巻に引き続き極めて啓蒙的な作品になっているんだけど、なんだかんだでエンタメにしているのは良いと思う。ただ、作者がもっとも届けたい層にちゃんと届くのかどうかが不安なところで、学園異能的政治バトルなんてやっても喜ぶのは自分のようなおっさんばかりなのでは、と思わなくもない。

それはそれとして本編について。前巻においてはなんだかんだで学園で独裁的強権を振るう真・生徒会と、学園にリベラルを持ち込もうとするカオス・生徒会という対立構造で語られており、主人公の目からは、やはりリベラル側であるカオス・生徒会側が”正しい”ように描写されていた。独裁に対する解放軍みたいな、単純な二元論に落とし込まれているところもないではなかった。だけど、もちろん政治において、”正義”と”悪”の対立構造などありえない。真・生徒会もカオス・生徒会も、それぞれが理想とすべき目的のためにあらゆる手段を用いて選挙を勝ち抜こうとしていて、そのためには民主主義の原則を捻じ曲げることさえも平気で行ってゆく。大衆を煽動し、思考能力を奪い、選択を狭めてゆく。時に相手の弱みにつけこみ、弱みがなければでっち上げることさえもする。両陣営はお互いを徹底的に攻撃し合い、思考能力を失った愚民たちを都合よく動かしていくのだった。しかし、この物語では、そうした行為が非難されることはない。なぜかと言えば、政治において”結果は手段を正当化する”からだ。そもそも、政治を為す人が卑劣な手段を用いようと、またその人が権力欲に取り付かれたような人物であったとしても、それは”結果とはなんの関係もない”ことなのである。どんな手段を用いようと、どんな動機ではじめたものであろうと、結果さえ良ければ、国民(ここでは学生だが)は文句は言わない。なぜなら、国民は自分の生活がなによりも大事だからだ。そして政治とは”国民のために行われる”ものだとすれば、国民が大事なものを保障してやれば、それですべては正当化されうるのだ。

などと、我ながら極端なことを書いてしまったが誤解はしないで欲しい。僕自身はこの考え方を是としているわけではないし、たぶん作者もこれが正しいなどとは思っていない(たぶん)。あくまでも、これは啓蒙であって、少なくとも作者の考えている”政治”というものは、国民に見えないところで動いていくもので、それに対して何も考えないでいれば、いいようにされるだけなのだ、と言うことを描いているだけなのだ(おそらくは)。それは、主人公が属するカオス・生徒会側も同様にして鵜呑みにするべきではないという事が描かれているのだが、例えば主人公格であるブサイクロンの演説は、本当に人の心をうつ素晴らしい説得力を持っているのだが、これもまた政治の道具に過ぎないのだ。彼は本当に学園を良くしたいと考えて演説を行っているわけだが、それはカオス・生徒会の首魁、サタンクルース悪魔の目的に沿った行動であるに過ぎない。その意味ではサタンクルースは紛れもなく悪であって、彼もまた学生などは自分も目的を達成するための駒でしかないのだ。それと同時に、サタンクルースの行動は紛れもなく学園にリベラルの風を吹き込むことにもなっており、そこには”たった一つの真実”などと言うものはない。彼は部下の心を操り、蒙昧なる学生を煽動し、しかして学園に自由をもたらしもする。政治の”結果”において、政治を為すものの人格が行動は問われないと言うのは、そういう意味でもありうる。権力の亡者が、かならずしも暴政を敷くわけではない。とりわけ民主主義においては、本人の人格など些細なものに過ぎない、と言い切ってしまうのはさすがに暴論が過ぎるだろうけれども。

そこには”正しい”ことなんてない。世界のすべてがそうであるように。刻一刻と善悪さえもひっくり変える世界の中で、何を信じてどう動くべきか。そういうことを考えましょう、という事を、作者は、本当に分かりやすく、分かり易過ぎるほどに繰り返し描いているように思えるのだった。

追記。個人的に面白かったのは、真・生徒会とカオス・生徒会はお互いに憎みあっている政敵であるのだが、政治の外側から干渉してくる相手に対しては、ある種の共同戦線を張っている描写があるところだ。敵とは常に敵であるわけではなく、最強の敵は、時に誰よりも信頼できる味方でもある。それがカードをひっくり返すように状況に応じて変化していく複雑さがあって、そういう節操のなさこそが”強い”ということなのだろう。

|

« 『筋肉の神マッスル』 | トップページ | 『神林長平トリビュート』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/55379710

この記事へのトラックバック一覧です: 『スクール・デモクラシー!(2)』:

« 『筋肉の神マッスル』 | トップページ | 『神林長平トリビュート』 »