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2012.08.01

『スクール・デモクラシー!(1)』

スクール・デモクラシー!(1)』(吉村夜/講談社ラノベ文庫)

なんとなく、タイトルと吉村夜という作家に対する先入観から、さぞかし政治的、あるいは啓蒙的な作品になるんだろうなあ、と思っていたのだが、それはある意味では裏切られた。もちろん、吉村夜という作家の持つ風刺精神は健在で、民主主義という形態の悪しき側面を露悪的なまで描きこんでいるのだけど、一方でこれは学園異能バトルの正しき継承でもあると思うのだった。

吉村夜という作家は、なんと言うか、読者に対して啓蒙しようという意欲の強い作家であって、一方でエンタメ志向も持ち合わせているため、啓蒙精神とエンタメ志向が激しく対立していくところに、不思議な面白さがあるのだ。そんな作家が政治について語ろうとするのならば、さぞかし生臭くなるのは必定ではあるのだが、そこに山田風太郎的な異能バトルの要素を持ち込んでいるあたりが、予想外のところではあったのだった。なんと言うか、吉村夜って、予想以上にボンクラだったんだな、って言うか。こういうボンクラの極みみたいな設定で、ボンクラ極まりない物語を描く人だったんだ、と新鮮な気持ちになりました。

異能バトルと書いたけど、別に作中の登場人物たちが超能力を持っているわけではない。ただ、キャラクターにそれぞれ個性に応じた二つ名(作中では真名)が与えられていたり、それぞれの特性を生かしてスクール・デモクラシーに挑んでいく展開は、明らかに(と思うのだが)異能バトルのフォーマットに沿っているように思う。超常的な能力の代わりに、主人公たちが駆使するは政治力であったりして、その”置き換え”のやり方がすごく面白いと思った。

何と言っても、政治的主張と通すために、二つの陣営がそれぞれ民主主義の悪しき側面を駆使し、愚民たる蒙昧な大衆を操っていく展開に、一定の説得力があるのが素晴らしい。主人公の一人である郷田竜也(真名をブサイクロン非モテと言う)が大衆に向けて演説をしていくのだが、この演説が、確かに大衆を動かすに足る説得力があって、これはなかなか凄いことなんじゃないか、と思うのだった。主人公たちを束ねるカオス・生徒会の首魁、来栖明(真名はサタンクルース悪魔)や、敵対組織、真・生徒会の会長、久遠寺光の民主主義を悪用しまくった戦略など、エンターテインメントとしても見事なカタルシスがあると共に、民主主義を骨抜きにしていくエリートたちの恐ろしさを描くという啓蒙精神の発露があって、なんとも複雑な味わいがあるのだった。

説教臭いと言えばこれぐらい説教臭い話もないのだが、それでいてボンクラの極みみたいな中二バトルも繰り広げられていて、一言で言ってしまえば”怪作”と言うほかはないのだが、そうした一言で片付けられないところもあると思う。

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