« 『飛行迷宮学園ダンゲロス―『蠍座の名探偵』―』 | トップページ | 『千の魔剣と盾の乙女(7)』 »

2012.07.10

『RPF レッドドラゴン 第一夜 還り人の島』

RPF レッドドラゴン 第一夜 還り人の島』(三田誠 他/星海社FICTIONS)

RPFってなんだろうと思ったけど、どうやら新しく作られたTRPGルールのリプレイのようだ。なにか説明はされていたけど詳しい設定はわからないけれども(どっかにあるのかもしれないけどまだ調べてません)、プレイヤーたちがわいわいがやがややっている雰囲気はつかめる楽しいTRPGリプレイになっている。まあ、わざわざRPFと名づけられているあたり、どうやらかつてのTRPGとは違うものを作ろうとしている意図のようなものを感じられのだが、なにぶんルールや設定がわからないので、いまのところははっきりとは掴めない感じ。ただ、プレイヤーの面子が異常に豪華なものになっていて、ゲームマスターの三田誠を始めとして、虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟など、小説家、あるいはイラストレーターなど”物語を作ることも職業にしている”人たちが集められているところに、おそらく意味があるのだろう。

一読して感じられるのは、この作品内におけるゲームマスターの地位の低さだ(これは自分の感じただけなので、実際の意図とは違う可能性はあるのだが)。従来のTRPGにおいて、物語を紡ぐのはゲームマスターの役目であって、とは言っても、プレイヤーたちはゲームマスターの用意した世界で冒険して共に物語を作っているのだけど、それでも物語の根幹を語るのはゲームマスターの役目だったはずなのだ。しかし、このリプレイにおいてはそうではない。ゲームマスターはその役目を半ば放棄しており、その代わり、プレイヤー自身が、まるでゲームマスターのようにキャラクターごとの物語を語っているように見えるのだ。プレイヤーは、自分自分のロールするキャラクターの設定や能力や裏事情や真の目的など、とにかくさまざまなものを作り出す。つまり、プレイヤーは自身のキャラクターの”物語”紡ぎだしている、という事も出来るだろう。

これは、プレイヤーたちが”物語を作ることを空気のように行える”人たちであることと無関係ではないのだろう。プレイヤーはそれぞれゲームマスターと協力しながらキャラクターの物語を紡いでいくのだけど、しばしば、プレイヤーの持つ物語がゲームマスターが意図する物語とぶつかりあってゆく。ゲームマスターである三田先生は、物語を自在に紡げるプレイヤーに対して、むしろ積極的にキャラクターが持つ物語を個別に紡がせる手助けをしていく。そこには、陰鬱な暗殺者が死山血河を築き上げんとする暗い渇望の物語があり、呪いを受けた騎士が能天気な態度と裏腹の歪みを背負った物語があり、あるいは他者に流されるだけであった王子が自分の意思で運命に立ち向かう物語があり、侮蔑と恐怖によって世界から拒絶されていた少女が王子とともに歩き出す物語がある。そこには個別の物語が存在しており、時にゲームマスターの持つ物語を、すわ食い破ろうとするほどの強度があるのだ。

例えば、虚淵先生のキャラクターは、およそ人倫と呼べるものを一切もたないスラッシュダーク・ウロブチキャラであって、プレイヤーキャラでありながら物語の裏で暗躍するという変り種。積極的に仲間を騙し、彼らの知らぬところで策を練る。そうして自分の目的を達しようとするのだ。一方で奈須先生のキャラはのほほんとした昼行灯でありながら、ある呪いと契約によって無双の力を得た、しかし、力によって歪みを抱えた抱えた人物としてロールされる(つまり、いつものきのこキャラである)。さらに、しまどりる先生や紅玉先生のキャラクターが紡ぐ気弱な王子と献身的な魔物使いの少女が寄り添う物語があって、これもいつもの紅玉作品のようである。つまり、ここはウロブチ作品のキャラクターと、奈須きのこ作品のキャラクター、紅玉作品のキャラクターのクロスオーバーが発生していると言っても良い状況が生まれている(しまどりる氏は良く分からないが、この人のイラスト力は侮ることは出来ない)。ざっくり言ってしまうと、「コン・タオローと衛宮士郎が競演したらどうなりますか?しかも、それぞれのキャラの台詞や行動は全部作者本人が書きます」という感じだ。

正直、この試みはものすごく面白いことだと思う。もちろん、ある程度の方向性は決まっているのだろうけど、それぞれのキャラクターが持つ物語は、これからどのように対立し、あるいは止揚されていくのか否か。ウロブチ的暗黒バッドエンドが物語を飲み込むのか、または奈須きのこ的歪んだ成長譚が打ち勝つのか、あるいは紅玉いづきの叙情が世界を満たすのか。先の見えない物語の幕は始まったばかりであって、ただ静かに次の物語を待ちたいと思う。

これがRPFというものなのか、あるいはプレイヤーの力によって偶発的に出来上がったものなのかは良く分からないにしても、ひどくエキサイティングな代物に仕上がっている。こんな作品がポコポコ出来るとは思えないが(ゲームマスターとプレイヤーの力量に依存する度合いが極めて高そうだし)、それでもとても興味深いものを見れているように思う。

|

« 『飛行迷宮学園ダンゲロス―『蠍座の名探偵』―』 | トップページ | 『千の魔剣と盾の乙女(7)』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/55163031

この記事へのトラックバック一覧です: 『RPF レッドドラゴン 第一夜 還り人の島』:

« 『飛行迷宮学園ダンゲロス―『蠍座の名探偵』―』 | トップページ | 『千の魔剣と盾の乙女(7)』 »