« 『ベン・トー(9) おかずたっぷり!具だくさん!香り豊かな欧風カレー弁当すぺしゃる305円』 | トップページ | 『魔法少女育成計画』 »

2012.07.24

『銀のプロゲーマー』

銀のプロゲーマー』(岡崎裕信/スーパーダッシュ文庫)

この作者の良いところは、得体の知れないほどのテンションの高さだと思っていて、ときに話を破綻寸前まで追いやるほどの熱量を持っていたのだけど、それゆえに作者の”素”が出やすくて、あまりにも直裁に”素”を出しすぎているところがあった。それゆえ、作者の”素”に共感できない読者を完全に振り落としているところがあって、つまり、悪い言い方をすれば技巧を軽視しているという事でもあった。しかし、今作は、比較的作者の”素”の出し方に技巧が感じられると言うか、良い感じにひねくれた出し方をしていた。良い意味で大人になったと言うか、ノーガード戦法一本だったのが回避を覚えたと言う感じ。決してテンションが低くなっているわけではないが、作者の立ち位置が、作品からだいぶ後退していることもあって、ずいぶんと印象が変わっているように思える。特に作品を一つの思想だけが支配している有無を言わせない感じがだいぶ減っていて、作者もきっといろいろ苦労したんだろうな、などと思ったりもした。失礼な話だが。

全体的に一つの事柄にのめり込んでいる人々の話しているのだが、こういう人たちの話は得てして外面のことを考えないために痛々しくなってしまうのだが、痛々しさと裏腹の楽観的なビジョンのあり方はけっこう幸福なものがあって、主人公のかなり癖のある造形のわりになかなか好感の持てるキャラクターとして描かれているあたりも、そうした楽観さが支えているように思える。それ自体はとても素晴らしいことなのだが、そうした楽観さは、また同時に外部からの介入によって容易く崩れるものであるという事もきちんと示すとともに、「外部の存在を拒絶しよう」という主人公のクライマックスにおける宣言が前向きなものとして描かれているあたりに面白さがあるのだった。

そっちはそっち、こっちはこっちでやっているので干渉するな、っていうのはかなり閉鎖的なものではあるのだけど、そうした閉鎖されていく環境を”肯定する”と言うのは間違っていないし、不健全だとも思わない。楽園と言うのは、どう足掻いても閉鎖的なものになるのだし、閉鎖されていないと繁栄しない生態系というのも存在する。なんでもかんでも開放すれば良いというものではない、と言うような、まあ世間的な価値観からは逆行していることを、あえて断言することには、たぶんきっと大切な意味があるのだ。

|

« 『ベン・トー(9) おかずたっぷり!具だくさん!香り豊かな欧風カレー弁当すぺしゃる305円』 | トップページ | 『魔法少女育成計画』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/55270671

この記事へのトラックバック一覧です: 『銀のプロゲーマー』:

« 『ベン・トー(9) おかずたっぷり!具だくさん!香り豊かな欧風カレー弁当すぺしゃる305円』 | トップページ | 『魔法少女育成計画』 »