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2012.07.17

『修羅場な俺と乙女禁猟区(3)』

修羅場な俺と乙女禁猟区(3)』(田代裕彦/ファミ通文庫)

前巻では、すでにゲームは崩壊しているという事を書いたけれども、そこからもう一度ゲームの側に揺り戻した出てきたことには驚いた。もっとも、展開としては意外というわけでもなく、むしろゲームをゲームとしての存続を求める人間がいると言うのは、当然のことではあった。むしろ、「”敵”が存在することで勝利条件が具体化する」ということでもあるわけで、物語(=ゲーム)を終わらせるためには、避けては通れないところであっただろう。

ただ、個人的には「来てしまったか……」と言う感触もあって、実のところもう少しこのゲームとしての体裁をとりつつもゲームそのものが崩壊していくという形の面白さを堪能したかった気持ちもあるのだった。”憎悪”というカードは、容易に”愛”に移り変わることや、”悪意なき悪意”を持つことなど、人間感情の面白さというものを描いてくれたこのシリーズにおいて、他の婚約者を描くにあたって、もう少し掘り下げられそうな雰囲気もあったからだ。今回は駆け足で解決してしまった三人も、実はもっと描かれるものがあったのではないか、と。例えば”正解”とされた彼女(黒幕の彼女とは別ね)は、愛していることは確かながらも、愛ゆえに主人公を損なう存在であって、これをきちんと描いてくれたらどんなものが出てくるのか、と思わずにはいられない。まあ、「あれが欲しいよう!」とねだる子供の我がままであって、ここで閉じることを選択した作者を責めるものではない。ここで閉じたことでしか選択できないものと言うのもあるのだろう。

主人公が”黒幕”と対峙するあたりなどにそれは感じられるのだが、まあ、例によって自分の感情さえも取引の道具にしてしまう主人公の特色(あるいは欠陥)が存分に明らかになるのだけど、なんとなくではあるが、物語が始まった当初の主人公にはない選択があるように思えた。この主人公の”異常性”は感情を道具としてしか扱えない(見えない)のだけど、その一方で、感情とは取引のカードとして扱うことの難しさを学んでいるように思える。はたして、物語当初の主人公は、”黒幕”の少女に対して、最後に手を差し伸べることが出来ただろうか?いや、最終的には手を取る選択には変わりないと思うけど、彼女の感情までを汲んだ選択までは出来ただろうか?そのあたりに、実に微妙なラインではあるが、主人公の変化が感じられる。彼は、感情というものの不安定さ、あるいは人間と言うものの浮遊感とでも言うべきものに、目を向けるようになっている。だから、彼は、すべてを汲んで手を差し伸べることが出来たのではないか、と思える。

これは、この時点でしか選択できないことだと言うのは、あるいはこの物語が5巻とかもっと続くようになったとすれば、主人公は感情の”揺らぎ”を自身でも獲得するのではないか、と思えるのだ。現時点での彼は、自分の恋愛感情でさえ道具として扱える。しかし、これ以上の時間をかけて婚約者たちと向き合っていけば、それが出来なくなる可能性もあったのではないか、と思えるのだ。もちろんこれは可能性の問題であって、あるいはまったく逆に、いくら時間をかけても主人公の揺ぎ無さが確認できるだけかもしれないけれども。だから、この時点で物語を閉じることにも意味があるのだろうし(これ以上続いていたら、この選択が出来ない主人公が立ち上がるかもしれないから)、それを受け入れようと思うのだった。

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