« 2012年5月 | トップページ | 2012年7月 »

2012.06.28

『おまえは私の聖剣です。』

おまえは私の聖剣です。』(大樹連司/GA文庫)

少年が早々に覚悟完了しているのに対して、少女の方がなかなか少年を受け入れられないあたりが面白かった。主人公側の方が異常に対する適応性が高いと言うのは、ある意味において非日常を常に妄想しているボンクラ的な発想に近く、『オブザデッド・マニアックス』の主人公を思い起こしてくれればよいと思う。ただ、こうした伝奇ものにおいて、本来は主人公を異界に導く役目であるはずの少女が少年の存在を受け入れられないと言う点に、作者の不思議な倒錯と言うか、あるいは逆に健全な感覚なのか、そのあたりははっきりとは分からないものの、強く感じるのだった。

こうした倒錯は、あるいは過剰に意味づけされる少女側の反論という感じにも取れるのだが、つまり非日常に身を置いている少女だって、別に非日常を好んでいるわけでも適応しているのでもなく、ただ仕方なく、ブツブツ文句を言いつつやっているのだと。そこには戦闘美少女の持つ”萌え”と言うか、そういうものとはいささか以上に異なる泥臭さがあって、それゆえに「非日常が日常」化している感覚がある。つまり、より一層の非日常に対する近さがある。

そこには非日常に対する近さと共に、伝奇アクション的な世界においても、個人的な感情に拘泥してグダグダしてしまっていると言う不思議があって、そこが並列化されてしまっている。つまり、バトルと人間ドラマが等価として扱われている。その扱い方は結果的に読者をどちらかに没頭させることを妨げているのだが、どちらかに没入させないという事には、たぶん意味がある。それは、おそらく非日常に対する態度の問題であって、非日常に叩き込まれたからと言って、女の子の気持ちを無視してよいかと言えばそんなことはないという事で、そこでは非日常の中にさえ日常が存在しているという事が意識されている。あるいはそれこそが非日常が日常化している、という事かもしれないのだが(これは『オブザデッド・マニアックス』で形を変えて語られていたので、作者が拘っているところなのかもしれない)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.26

『メグとセロンVII 婚約者は突然に』

メグとセロンVII 婚約者は突然に』(時雨沢恵一/電撃文庫)

メグミカとセロンの恋の駆け引きって言うか、感情のすれ違いがややこしいのか単純なのか良く分からなくて、メグミカさんも乙女だったんだなあ(超失礼)と思った。メグミカさんは別に聖女でもなんでもなくて(セロンはたぶんマジで聖女だと思っていそうだけど)、言葉が不自由なせいで天真爛漫に見えているけれども、内面は怒ったり悩んだりへこんだりもする普通の女の子なんだね。ただ、それを知っているのはスー・ベー・イル語を喋ることが出来るリリアだけ、と言うのが問題ではあったわけだけど。

今回のゴタゴタは、そうしたメグミカの内面と外面の乖離から生まれたものだ。もちろん、新聞部員たちは、ちゃんとメグミカだって普通の女の子なんだということは分かっていると思うけど、それでも普段の(言葉が不自由なゆえの)空気の読めなさ、(ロクシェ語では伝えきれないものを伝えるための)行動力から生まれる先入観みたいなものが残ってしまっている。これは読者にとっても、少なくとも僕にとっては同じで、ときどきメグミカは女神みたいな子なんじゃないかと感じるのだが、時折挟まれるリリアとメグの会話でようやく、あメグミカって普通の女の子なんだな、と思い出すのだった。一方でスー・ベル・イル語を使う側であるリリアやメグミカの家族の方ならばメグミカの本当の姿は分かっているかというと必ずしもそうとは言えなくて、ロクシェ側での彼女を知らないという側面がある。つまり、彼女らは”普通の女の子”としてのメグミカしか知らず、新聞部において皆を引っ張る起爆剤としてのメグミカを知らないのだ。

結局のところ、人間の”本当”などと言うものは環境や状況、ここでは言葉の問題も含まれるけど、そうしたもので見え方は変わるのだ、ということが描かれていて、それは本当に正しいことだと思う。どちらのメグミカも”本当”であって、しかし、それを把握している人間がほとんどいなかったことが、今回のすれ違いの本質なのだ。だからセロンがするべきことはそのギャップを埋めることであって、それが”スー・ベル・イル語を学ぶ”ということを選択したセロンは本当に正しい。物語の最後で、セロンがメグミカに対して下手くそなスー・ベル・イル語で語りかけたというのはそういう意味であって、つまり、メグミカの両面をきちんと受け入れたいということを態度で示したということなのだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.23

『ミスマルカ興国物語Ⅹ』

ミスマルカ興国物語Ⅹ』(林トモアキ/角川スニーカー文庫)

マスラヲの重要キャラクターが登場して、作品間のリンクが強まってきている。マスラヲも徐々に物語の水位が上がってきているところもあって、並行して描かれることによる面白さが見えてきているようにも思う。過去と未来が描かれることによってミッシングリンクが明かされることで生まれるカタルシスだけじゃなくて、あの物語とこの物語が遠い、はるかに遠いどこかでつながりがあるという、どこかで生きていた人々の物語がなんらかの形でこの物語に届いているのだ、と言う広さを感じるのだった。

まあそれはともかくとして、帝国三姉妹エピソード(と言うのか知らんけど)も最後の一人、ユリカさんの登場です。まあ、この人とマヒロの付き合いも長いので今更という感じもあるんだけど、真面目に戦うシーンは初めてだし、今までにない側面も見れたりして、それなりに活躍している感じがします……って自分で書いておいて感じわりーな。まああんまり目立つこと好きな人じゃないし、自己主張も強くないし、そもそもこの人マヒロにそんなに興味なさそうだしね。そういう人が当番回とは言えヒロインを務めるのもすごいもんだな。

帝国三姉妹で言えば、三人の父親である皇帝陛下とマヒロは仲良すぎねーか?二人の心温まる交流には心があったかくなりますね。実の父親に得られなかった男同士の交流とでも言うべきものを得ていると思うと涙が止まりません。笑いの。こんなに楽しそうに喧嘩していると、これはいよいよルナスとの結婚が物語的にも具体化してきているという感じがあって、ルナス贔屓の自分としては、うっひょーって感じ。まあ、宰相の人がやたらと不穏な行動をしているので(フェイクの可能性もあるけどね)、帝国が倒れる可能性もあるけど……。作者のことだからどうなるか知れたもんじゃねえや。

今回から初登場のキャラクターも何人かいるみたいんだけど、どうも新キャラなのか別シリーズにもいたのか良くわからない人もいて(新キャラでも古顔みたいな感じで出てくる)、良い意味で混乱する。出てきた瞬間に過去を想起させられるってのは、僕はマイナスではなくプラスだと思ってて、ケセランパサランみたいに何食わぬ顔して出すやり方はけっこう好きなのだった(この人初登場…だよね?いまいち自信がないんだ)。

しかし、林トモアキって不思議な作家だなあ、としみじみ思う。基本的にマクロ、つまり国家スケールの話はまったく書けない人だという失礼な認識を持っているのだけど、このシリーズみたく国家の話をしている物語にまったく違和感を覚えない。むしろすごく楽しんでいる。これは国家の話をしつつも、描写は徹底してそこに所属する個人の物語を描くことで、結果的にそれが国家の話になっているためなのだろうと思う。ここまで個の話しかしてないのに、なぜかそれが大陸の構図を塗り替えていくことに、違和感を覚えない自分が良く分からない。引っかかる部分をスルーしているだけなのか、あるいは描写に納得しているのか……。どっちしても、面白いなあ、などということを読みながら思っていました。終わり。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2012.06.20

『楽園島からの脱出』

楽園島からの脱出』(土橋真二郎/電撃文庫)

土橋真二郎作品が根本的に持っている”エロス”について書きたくなったので書く。前から土橋作品はエロいなーほんとエロいなーと思っていたんだけど、今回は特にエロかったと言うか、エロさが分かりやすかったというか、分かったという感じなのだった。何を言っているのか分からないと思うのでもう少し書く。

土橋作品においては女性キャラクターがきわめて消費的な存在と言うか、その存在価値が数字で還元されてしまうところがある。つまり、女性としての価値が数字的な絶対評価がなされている。まあ、これは女性キャラクターだけに限った話じゃなくて、そもそも人間性というものに対してきわめてドライな視点があって、人間は大量生産品であり代替可能な存在である、というような認識がある。これは、そうした認識がメインなのではなくて、ドライな人間観が先にあって、結果として代替可能な存在として描かれている感触があって、その辺はもう少しきちんと見てみないといけないかもしれない。が、今回はそれは置いておくことにする。

キャラクターの価値を数値化することで、キャラクターの魅力は同時に消費可能な存在となり、それが作品世界においても施行される。主人公たちは、必ずしも自覚的とは限らないがヒロインたちを、悪い言葉で言うと”品定め”をしているところがあって、それは読者の視点と重なるところにある。どれくらい重なるかは読者の感情移入度合いにもよるだろうけど(そうした視点に嫌悪を持つひとは感情移入しにくいかもしれない)。

この、ヒロインを”モノ”としてみる視点こそ、おそらくは土橋作品におけるエロス(と僕が感じるもの)の根源であって、そこには実際に”モノ”として扱うかどうかは問題ではない。ヒロインをモノとして欲望する、というあり方には人形やフィギュアに対して欲望するあり方にも通じるエロティシズムがあって、直接的な性描写よりもきわめて倒錯したものを感じるのだった。

ヒロインを”モノ”としてみる視点と言うのは作中でも分かりやすく提示されていて、ヒロインたちに全員白いワンピースを着せているところなんて、凄まじく悪趣味だと思った。正直、そこまで女性を記号化することに執着する精神の気持ち悪さがあって、他にももちろん女性たちが男たちの”道具”として設定されていることは読み進めていけばすぐに分かることで、ゲームのルールを考えた存在の非人間的なまでの醜悪な精神の腐臭を漂わせている。そんな薄汚れた欲望にさらされているヒロインたちにこれまた倒錯したエロスが感じられて、例えるなら、綺麗なものが汚されてるような感じだ。

そこには何重にも倒錯したまったく素晴らしいエロスがあって、僕などはものすごく楽しいのだった。すいませんね下種野郎で。ゲヘヘ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.19

『六花の勇者(2)』

六花の勇者(2)』(山形石雄/スーパーダッシュ文庫)

前回は閉鎖空間における犯人当てという推理物としてシンプルな話だったのだけど、今回はそれに凶魔との死闘が加わっているため、非常に忙しい内容になっています。とは言え、バトルファンタジー+推理というコンセプト上物語の要素が混在するのは当然なのでそれ自体は問題はないものの、物語の後半ではそもそも誰が善で誰が悪なのか、と言うところからして疑問が差し挟まれていて、物語はさらに混雑してくることになりそうです。楽しみですね。

今回の”犯人”は山の聖者ことモーラさんで、それは冒頭で示されている。物語は彼女がいかにして犯人になり、いかにして犯行に及んだかが描かれているわけですが、彼女が犯行に及ばざるを得なくなるように布石が打たれていく展開がきちんとしているのが良いと思いました。モーラも決して座して見ているだけではなくて、いろいろと手段を探っているのに、それでもどうしようもなくなっていく、という追い詰められ方がきちんとしている。それだけで安心感がありますね。それがないと、後半のちゃぶ台のひっくり返し方が生きてきませんからね。もともとモーラさんは真面目で融通の利かないタイプであることは前回で十分に示されていたので、その意味でも説得力がありました。

そしてモーラさんの話を主軸にしつつ、”七人目”の存在や凶魔たちの社会、ナッシェタニアの意図などが提示されていて、ある程度明らかになったものもあるけど、よりいっそう状況を複雑にしているものもある。とくにナッシェタニアの意図については、まあ明らかになっているものは少ないけれど、どうやら凶魔の主軸とする考え方からは離れた意図らしくて、徹底的に人間と対決する陣営からは切り離されているところを見ると、ひょっとしてもうちょっと妥協的な態度なんだろうか?まあ前回は完全にアドレットたちを殺そうとしていたけど、それがイコール人間に敵対するとは限らないしね。とにかく、人間VS凶魔、という単純な図式ではないということを考えると、いろいろと振り出しに戻った感じがありますなあ。そもそも”六花の勇者”ってのが具体的に何をするのかも良く分からんし……。あと、ゴルドフの言動と行動がいちいち危なっかしくて、単に落ち込んでいるのかそれとも意図があるのか裏読みしてしまいたくなるところもあったりして、ああ作者の手のひらで踊っているなー自分、と思いました。

結論、良く分からんですが、登場人物たちがひたすら自分の限界を突き詰めて選択している感じがすごく楽しいので次も楽しみにしたいと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.15

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(10)』

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(10)』(伏見つかさ/電撃文庫)

京介くんは良い意味で大人っぽいところがあって好感が持てるのだけど、クライマックスのネゴシエーションシーンで、相手を不用意に追い詰めすぎないところなんかが特にそう思う。相手がどんなに自己中心的であっても、認めるところは認めて追い詰めすぎないようにしていて、まあ盗人にも三分の理じゃないけど、どっかで相手が収まる場所を作るところがいい奴だなーって思う。まあ、交渉ってのはそういうもので、お互いに納得できる妥協点を探るものだから当たり前だけど、基本的に子供な登場人物が多い話だけに(麻奈実は別だけど)、ちゃんと年上らしいことをしてんな、って思う。いや、こんな交渉事に強い高校生なんて滅多にいないけど。

説教を食らわせて相手を説得するという意味で、さらに説教した相手でハーレムを構築していると言う点で、禁書目録の上条さんが思い起こされるわけですが、あの人に比べると京介くんは己の理念と言うのがないのでそういうことになるのだろう。まあ、それは人間のスケールが小さいから相手に自分の影響を強く押しつけることが出来ないということでもあるのだろうが。でも、必ずしも”勝つ”ことが”正しい”わけじゃないしね。負けることが出来る京介くんは、これはこれでたいしたものだと思うわけですよ。こういうヒーローがいてもいいんじゃないかな、などど今まで思っていたけど書きそびれていたことを書いてみました。

しかし、もう十巻かー。こんな長丁場になるとは思わなかったな。実を言うとこういうオタクを自己肯定するような作品にはあまり良い印象を持ってなかったんだけど、この作品には、オタクという存在は良いところもあるけど悪いところもあるというバランス感覚(特に二巻以降)があったので、そのうち気にならなくなったのよね。むしろ”オタクでも一生懸命に生きている”みたいな、そういう真面目な印象が強くなってきて、良い話だなーと思う。ま、ホントにこいつら気持ち悪いけどね!(自虐)でも、それでも生きていてもいいんだ、生きる権利はあるんだ、と言うようなものは、存外切ないし、けなげなあり方だと思うんだ。そういう自己嫌悪と自己否定の闇の中に囚われた人間が、それでも前に進む話って、僕は好きなんだよね。

あと、こういう話が”好き”だと言えるようになったのは、実はこのシリーズのおかげなところもあって、けっこう僕の考え方にも影響をもらっている。そういう意味でも感謝しています。次からは新展開ということだけど、これからも学ばせてもらいたいと思っています。かしこ。

 

しかし、なんで自分はまとめみたいなことを書いているんだろうな……。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.14

『人生 第二章』

人生 第2章』(川岸殴魚/ガガガ文庫)

キャラクターとはある課題を提示してそれに対する反応によって作られるというところがあると思うんだけど、お題を出して会話させるとはキャラクターを作るのに有効の方法なんだろうなあ、なんてことを考えた。別に目新しい意見じゃないと思うんだけど、逆に言うとこういう小説はキャラクターを立てること”しか”目的にしていないと言う意味で、もっとも純粋なキャラクター小説なのかもしれない。こういうキャラクター特化型小説が受け入れられるというのは現代に特有なのかもしれないが、考えてみれば昔の小説なんてものはストーリーなんぞよりも人間がウダウダと考えていることを延々と描写しているだけで成立していたりするのであって、そんなに違うものでもないのかもしれない。まあ、戯言だけどね。

こんな小説を読む上でなんの役にも立たないことをつい考えてしまうのは、”はがない”シリーズを初めとする”物語を排除した小説”は今後どのように成立していくのかが気になっているからだ。まあ個人的に気にしているだけなので大層なものではないのだが、例えば”はがない”シリーズは、キャラクターを延々と積み重ねていくことで結果的に”物語”が生まれているところがあって、そういうところはすごく面白いと思う。別に物語などなく、ただただ「キャラクターの”反応”を描き続けただけでも物語は生まれていく」と言う事実に感心しているところがあって、つまり、物語とは決して”あらすじ”とか”構成”とかそういうところにはないんだ、と言う感じ。大袈裟に言うと「小説の書き方」みたいなマニュアル本では絶対に書かれないような真実がそこにはあるんじゃないか、みたいなことを思うのだった。

この『人生』シリーズにはそういう手応えがあって、すごく良いと思うのだった。まあ作者の意図は良くわかんなくて、実は”物語”を描きたいんじゃないか?と思えるところもあるんだけど、それでいて物語をあえて”抑制”しようとする気配もある(考えてみれば前シリーズでもそういうところはあった。シリアスで深刻な展開にしようと思えばいくらでも出来るところで、あえてそこを踏み止まっている感じ)。この作者には、そのように抑制しながらも零れ落ちていくものがあって、そういうところがけっこう好きなのだった(例えば、対して描写されていないのに主人公と梨乃の関係が進展している感じだとか、ふみの家庭の話とか)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.12

『魔弾の王と戦姫(4)』

魔弾の王と戦姫(4)』(川口士/MF文庫J)

他国からの介入や戦姫側でもごたごたがあって、状況がけっこうややこしくなっているようで、泥沼の展開と言う感じがけっこう出ている。そんな状況でも結束することが出来ないで、お互いを疑い、牽制しあいながら、それでもグダグダと戦争しているところが良かった。そういう理不尽な状況でひたすら足掻く話は好きなんですよね。まあ、だからと言ってそういう展開を望んでいる読者ばかりじゃないだろうしバランスが難しいところではあって、その中でもティグルが活躍していく展開もある。ただ、どうも展開が速すぎると言うか、色々と過程をすっ飛ばしている感じもあった。まあ、あくまでもライト戦記という作品なので、そこを濃くやっても仕方のないところかもしれないのだが。全体的にそうした拙速さが感じられていて、これが分量を1.25倍くらいであれば自分としては調度良いと思うんだけども。まあ、個人的な感覚だ。

分量が足りないと言うのはもう一つ理由があって、ティグルとエレンで別々の戦いをしているのだけど、今までと同様の小競り合い程度ではない戦いが続くようになってくると群像劇的な要素が強くなってきてて、そうなると今までの分量では足りない感じがある。今回は拙速さを感じつつも何とか収まったかなとは思うんだけど、果たしてこの調子で大丈夫なのか心配になってくる。いっそのことティグルパートの戦いで一冊、エレンパートの戦いで一冊、ぐらいの執筆ペースでもいいような気がしてくるのだけど……まあ、これもまた個人的な感覚だし、でっけえお世話とも思う。

なんか色々書いてしまったが、話としてはきちんと面白かった。今後メインで出張ってくると思われる戦姫たちの顔見せ、あるいは現状の話であって、たぶんそのうちティグルに”落とされる”展開になるのだろうと思うけど、それぞれ現状にはいろいろと障害があって、さらにティグルには解決しなければならない懸案がいくつもあることが描写される。前途は多難ながらも、そうしたことすべてに対してティグルがどのように立ち向かっていくのかと言う期待感を煽られるところですね。エリザヴェータは今のところ確実に敵対している戦姫だけど、これはあれか、ヤンデレってやつか。エレンのことが好きで好きでしょうがないので敵対しているって感じか。ならばここが落としどころだろうな……ギャルゲー的に。ティグル氏の手腕に期待したいですね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.11

『這いよれ!ニャル子さん (9)』

這いよれ!ニャル子さん (9)』(逢空万太/GA文庫)

読者に対して配慮のあることで有名な作者ですが、今回もまた配慮をされているようです。ニャル子の初恋の相手の存在を匂わせながら、最終的に一途なニャル子で終わらせるオチには、読者に対するストレスを限りなくゼロにしようとする作者の見事な接待力が発揮されていると言えます。最近は初恋が主人公ではないだけてビッチ扱いされる世の中ですので、そうした配慮をしつつ、さらにニャル子が真宥さんに惚れた理由が、真宥自身にあるという理由付けをすることによって、ニャル子の肉食系な側面を希釈し、真宥に責任を生じさせるというところも面白い……かどうかは良く分からないものの、まあ上手いんじゃないでしょうか。真宥にとっては外堀が埋まっていく感覚なんだろうけど、ラブコメ的な進展としては確かにありのような気もする。まあ、よくわからんけど。

物語としてはわりとシリアスになっていて、やっぱり物語が動く(時間が流れる)と言うのは変化であって、変化が生まれるところには、それを受容するのかどうかというドラマが生まれてしまうんだな、と言うことを思った。つまり、敵の目的が宇宙スケールで小さいものというフォーマットはあるにしても、そこで語られているのは真宥やニャル子がお互いの関係(過去から現在までに繋がっているそれ)をどう捉えるのかと言う話になっていて、それは決してギャグでは回収しきれないものが生まれてしまっている、と言うことだ。まあ、全体がギャグになっている分、そうした一点が深刻に見えてしまうというところはあるにしても、そうしたことが物語を動かすということなんだろうなあ、と思ったのだが、別にそれに何か意味があるとかそういうわけではなくて、変化と言うのはすごい力なんだなあ、という自分でもよくわからない感傷というか感慨みたいなものがあって、思わず空を仰いでしまうような、そういう感じなのだった。自分でも何を書いているのか良く分からない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.06

『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金(2)』

龍ヶ嬢七々々の埋蔵金(2)』(鳳乃一真/ファミ通文庫)

探偵と怪盗の物語になっていて、この物語は現代的に語りなおした探偵小説なんだ、と改めて思った。ミステリ的な要素もあるけど、どちらかと言えば探偵と怪盗の対決がメインになっているところとか、そう感じる。探偵と怪盗の勝負が事件についてのアプローチの仕方が勝負の要点になっているところなど、現代的なカスタマイズがとても丁寧なのも好感が持てる。主人公の怪盗がいかにして登場人物たちを騙くらかしていくというところの爽快さとか、それでいて敵役やライバル役や被害者役の人たちと過剰に対立関係を煽る事のない仲の良い関係とか、読者がストレスを感じるところを上手く処理していて、読んでいて心地よいのだ。

もちろん探偵と怪盗の直接対決こそがこの物語のキモであることは間違いなんだけど、一方で、その対決のあり方、敵役としての立ち位置の作り方に、良い意味で深刻な感情はなくて、どこか超然とした感覚がある、と言うことだ。裏切っても、命を狙いさえしても、それでもお互いに絆がある、と言う感じ。これは確かに昔読んだ探偵小説における探偵と怪盗の特別な絆を思い起こさせるものはあるし、それとはまた別の、ライトノベル的な仲良し空間みたいなお約束とも取れるわけだけど、その両者を上手く組み合わせて料理している感じがあって、作者は小説についてとてもよく考えている人なんだろう。

そういえば、一巻では”騙し”のやり方が面白かったのだけど、種の割れた二巻目以降だとどうなるのだろうと思ったのだけど、まったく問題なかったね。むしろ安定感さえ漂う洗練されたやり口。主人公がなんらかの形で”騙す”ことは予想通りだったわけだけど、予想通りだったのが陳腐と感じられることなく、きちんとエンターテインメントになっている感じがする。これはきっとキャラクターの描きが良かったというところもあるのだろうし、最初に書いた過剰な対立関係のない関係の面白味とかもあるんだろう。そういうところの”楽しさ”は、自分の好きなところなのだった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.04

『あるいは現在進行形の黒歴史(7)-中二天使が俺の嫁?-』

あるいは現在進行形の黒歴史(7)-中二天使が俺の嫁?-』(あわむら赤光/GA文庫)

6巻を買ってないことに気がつかなくて、二冊同時に読んだのであった。なので実質二冊分の感想になります。ご了承ください。

ようするに第一部のクライマックス、と言った感じの展開で、楓子の黒歴史ノートから始まる一連の流れに決着がつく。これまで、死神と幽霊という一巻冒頭で提示された物語が、黒歴史ノートによって別の物語に塗り替えられていて、ある意味、ごっこ遊びみたいな話になっていて、マリスもいまいち真面目に成仏をさせる気がないばかりか、ガンガン戦ってはラブコメしているというパラダイス展開に終始していた。これは前にも書いたような気がするけど、ようするに死神と幽霊という物語(フォーマット)に、別の物語を上書きすることによって、そちらの物語を駆動させていたわけだけど、ついに六巻に至り、塗りつぶされていた本来の物語が反撃に移った、と言う見方も出来るのかもしれない。

死神の持つ圧倒的な力はヒロインたちを容易く滅ぼしていって、本来の救いのない物語が勝つように見えるけれども、そこに対抗するべくヒロインたちのラブラブいちゃいちゃが描かれていくと言うのは、一見異常な展開のようでいて、とても説得力があった。なぜなら、主人公たちが積み上げてきたのはそうしたラブコメであって、死という厳然とした冷酷さに対抗するために彼らが積み上げてきたものを発揮すると言う意味で、すごく正しい展開だと思うのだ。つまりこれは、二つのまったく別の物語が、メタレベルで対立しているわけで、なんか『デートアライブ』を思わせるユニークさがある。こちらの方がシンプルな分、物語としての安心感は素晴らしくて、二つの物語の狭間で起こる主人公の葛藤や、最後の展開にも納得的だった。結局、相手の物語(≒世界観)を飲み込んだ方が勝つんだよね。

7巻で、そうした物語間の対立は、一応終わったように思えるので、ラストシーンの描写には、わりと興味がそそられています。どうやら作者は”新しいルール”を持ち込むつもりがあるみたいで、あれはきっとそういうことなんだと思う。こういうのは、説得力を持って構築するのはものすごく大変で、一度作り上げたのを一度壊して作り直すのはさらに難しい。作者が一度壊すことを選択したのだとしたら、それだけで自分は絶賛するつもりなんだけど、果たしてどなることやら。期待と不安がほどほどに、と言ったところですね。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2012.06.02

2012年5月に読んだ本

最近、頭を使いすぎて知恵熱が出た。そして頭が痛くなった。普段、脳を使っていない証拠だなあ。

5月の読書メーター
読んだ本の数:24冊
読んだページ数:6681ページ
ナイス数:49ナイス

マークスの山〈下〉 (新潮文庫)マークスの山〈下〉 (新潮文庫)
物語における女性の無力感がパネェっす。
読了日:05月27日 著者:高村 薫
マークスの山〈上〉 (新潮文庫)マークスの山〈上〉 (新潮文庫)
高村先生、隠微って言葉使い過ぎ!隠微=淫靡をイメージしているんですよねわかります。
読了日:05月27日 著者:高村 薫
されど罪人は竜と踊る 11: Waiting Here to Stop the Noisy Heart (ガガガ文庫)されど罪人は竜と踊る 11: Waiting Here to Stop the Noisy Heart (ガガガ文庫)
絶対に中ニ心と怨念を忘れまいぞ、と言う作者の決意が伝わってきた。
読了日:05月22日 著者:浅井 ラボ
RPG W(O)RLD11‐ろーぷれ・わーるど‐ (富士見ファンタジア文庫)RPG W(O)RLD11‐ろーぷれ・わーるど‐ (富士見ファンタジア文庫)
こういう正調な冒険譚ってのはいいよな。
読了日:05月21日 著者:吉村 夜
魔王が家賃を払ってくれない 3 (ガガガ文庫)魔王が家賃を払ってくれない 3 (ガガガ文庫)
色々やっているが、概ねまともに面白い。すごいかどうかは分からないが。
読了日:05月21日 著者:伊藤 ヒロ
嵐の伝説(3)<完> (少年マガジンコミックス)嵐の伝説(3)<完> (少年マガジンコミックス)
壮絶としか。打ち切りは残念、というか無念極まりないが、これだけでも怪作と言える。
読了日:05月21日 著者:佐藤 将
おまえは私の聖剣です。 (GA文庫)おまえは私の聖剣です。 (GA文庫)
一度喋りだすと頭では思ってもいないことが止まらないってのは本当にあるんだよな。
読了日:05月21日 著者:大樹 連司
楽聖少女 (電撃文庫)楽聖少女 (電撃文庫)
スターシステムで毎回同じような所に躓いている主人公の悩みを読ませられるのはうんざりだ。前でも後ろでもいいから進んでくれ。
読了日:05月14日 著者:杉井 光
乙嫁語り 4巻 (ビームコミックス)乙嫁語り 4巻 (ビームコミックス)
文化が違うからって、それが「不自由」とか言うのは余計なお世話だよな。
読了日:05月14日 著者:森 薫
絶園のテンペスト(6) (ガンガンコミックス)絶園のテンペスト(6) (ガンガンコミックス)
真面目な顔で「女教師か?」「人妻か?」という左門さんに爆笑。あなた第一部のラスボスでしたよね…。
読了日:05月14日 著者:城平 京,彩崎 廉
鉄風(5) (アフタヌーンKC)鉄風(5) (アフタヌーンKC)
夏央ってホント真面目だよな。才能が卑怯だと思っているのに使わないという選択が出来ないんだもん。
読了日:05月14日 著者:太田 モアレ
惨劇アルバム (光文社文庫)惨劇アルバム (光文社文庫)
作者のホラーにはきちんとオチがあって、こういう所は理系ホラーって感じ。
読了日:05月13日 著者:小林 泰三
メグとセロンVII 婚約者は突然に (電撃文庫)メグとセロンVII 婚約者は突然に (電撃文庫)
物語に直接関係ない細部の豊かさが嬉しい。
読了日:05月12日 著者:時雨沢恵一
楽園島からの脱出 (電撃文庫)楽園島からの脱出 (電撃文庫)
土橋作品のエロさは人間をモノとして見ることから生じるのだな。
読了日:05月12日 著者:土橋真二郎
仮面のメイドガイ 15 (ドラゴンコミックスエイジ)仮面のメイドガイ 15 (ドラゴンコミックスエイジ)
冗談ではなく、一冊読み飛ばしたのかと思った。
読了日:05月09日 著者:赤衣丸歩郎
戦姫絶唱シンフォギア (1) (カドカワコミックス・エース)戦姫絶唱シンフォギア (1) (カドカワコミックス・エース)
思い切ったことをするな。まあ漫画版を買うのは適合者ばかりだから大丈夫か。
読了日:05月09日 著者:吉井 ダン
ジンキ・エクステンド ?リレイション? 5 (ドラゴンコミックスエイジ)ジンキ・エクステンド ?リレイション? 5 (ドラゴンコミックスエイジ)
もうどこまでモザイク模様を作るのか、楽しみにさえなってきた。
読了日:05月09日 著者:綱島 志朗
小説版めだかボックス(上)久々原滅私の腑抜けた君臨または啝ノ浦さなぎの足蹴による投票 (JUMP j BOOKS)小説版めだかボックス(上)久々原滅私の腑抜けた君臨または啝ノ浦さなぎの足蹴による投票 (JUMP j BOOKS)
久々原先生よ、めだかちゃんに”教えて”やってくれ。それはあんたにしか出来ないんだ。
読了日:05月09日 著者:西尾 維新,暁月 あきら
悲鳴伝 (講談社ノベルス)悲鳴伝 (講談社ノベルス)
少女不十分と表裏の関係にあって、共感出来ない突飛なキャラの内面を描くという試みがある。いや、僕は普通に共感できるけど。
読了日:05月02日 著者:西尾維新
ミスマルカ興国物語 X (角川スニーカー文庫)ミスマルカ興国物語 X (角川スニーカー文庫)
レイセンのBADエンド後の世界だったりするのかね。
読了日:05月02日 著者:林 トモアキ
“朧月夜” ヒカルが地球にいたころ……(4) (ファミ通文庫)“朧月夜” ヒカルが地球にいたころ……(4) (ファミ通文庫)
是光がヒカルの言うことを聞かずに先走った展開を入れたところが良い。
読了日:05月02日 著者:野村美月
ディメンションW(1) (ヤングガンガンコミックス)ディメンションW(1) (ヤングガンガンコミックス)
現状、古典的とも言える導入が、懐かしきSF感を醸ししている。
読了日:05月02日 著者:岩原 裕二
かんなぎ (7) (REXコミックス)かんなぎ (7) (REXコミックス)
こんなクライマックス直前だったのか。
読了日:05月02日 著者:武梨 えり
アニメ『化物語』副音声副読本(上) (講談社BOX)アニメ『化物語』副音声副読本(上) (講談社BOX)
音ではなく文字によるものだと印象が…あまり変わらんな。
読了日:05月02日 著者:西尾 維新,渡辺 明夫

2012年5月の読書メーターまとめ詳細
読書メーター

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.06.01

『棺姫のチャイカⅣ』

棺姫のチャイカIV』(榊一郎/富士見ファンタジア文庫)

このシリーズは感想を書いてなかったけど、ちょっと興味深い展開になってきたので書いて見ます。と言うのは、どうもこれ”偽物”についての話っぽいんですよね。偽物って言えば、最近だと西尾維新の”偽物語”とかあったけど、ようするにああいう話です。”偽物”とは”本物ではない”と言うこと、ならば偽物には価値はないのか?本物が出てくるまでの代替品でしかないのか?ならば、偽物として生まれたものは、なんの意味があるのか?と言う話。

結論から言ってしまえば、どうやらヒロインであるチャイカは、ガズ皇帝の娘であると言う触れ込みだったけれども、その意味が揺らいで来ています。チャイカと容姿がそっくりな、名前も同じなチャイカという少女が現れて、自分こそがガズ皇帝の娘なのだと語る。まあ、チャイカ自身の記憶も怪しいし、年齢も合わないということで、チャイカが偽物であるという複線はもう露骨にはられていたわけですが、どうもこの感じからすると偽物どころか、まともな人間でさえないと言う感じもあって、このチャイカたちは完全に本物の代替品としての存在のようです。

そうなると、次は、ただ本物と代わりでしかない偽物たちは、果たして本物と対峙したときに、どのような決断を下すのか、と言うところになるわけですね。本物と偽物というテーマは、最近の自分の中ではホットな話題なので、榊先生がどのような決着を持ってくるのかとても楽しみですね。あるいはそこを決着点にしないで、その先を持ってくる可能性もありますが、まあ榊先生は、アクセルを踏み抜くよりも堅実にブレーキをかけるタイプなので、そこまでは期待しないでおきますか。

一番つまらない決着は、アイデンティティが揺らいだチャイカが、他者(トールとか)の承認を経て復活すると言うもので、正直、他者に依存した結果の自己確立は勘弁して欲しいところですね…。まあ、否定するつもりはないけど。でも、その他者がいなくなったらどうするつもりだという感じがするしなあ。あと、偽物だと思ったけど実は本物だったぜ!という展開もありえるが、これはこれでどう展開するの興味深いのでOK。本物なんていなかったんや!と言う展開も現代性があって(まあ新鮮味はないが)悪くない。どうするんだろうねー(超無責任)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年5月 | トップページ | 2012年7月 »