『烙印の紋章(10) 竜の雌伏を風は嘆いて』
『烙印の紋章(10)竜の雌伏を風は嘆いて』(杉原智則/電撃文庫)
主人公サイドからすると、何を考えているのか良くわからないが、それゆえに不気味な存在感をかもし出していたグール皇帝の内面が描かれていると言うところは、結構重要なところなのかも。つまり、グール皇帝は怪物でもなんでもなく、怒り悲しみ理想を求め、そしてそれらすべてを失った存在なのかもしれないという予感を見せることで、ようやくオルバが何を戦うべきなのかと言うのが、読者側にわかりやすく提示されている感じ。まあ、オルバ自身は自分が戦う相手は明確と言うか、そもそもグールが何を考えているかなんて知ったことではないと思うけどね。ただ、不気味な存在であったグールが、怪物ではなく”人間”に降りてきたというところがあって、果たしてこれまで以上に”敵”としての格を維持できるのかと言うところに興味はあります。彼は彼なりの思惑と言うか、あるいは正義と言うものがあるみたいで、それが独裁者の傲慢とか、そういうところに落ち込んで欲しくないなあ、と言う危惧があって、でもたぶんこの調子ならば大丈夫なんじゃないかなという感じもあるのだった。
個人的にはビリーナが良く動くという感じがあって、彼女が動き出すと良くも悪くもオルバも突き動かされてしまうと言うか、つられて決断をしてしまうところがあって、なにやら物語が加速していく印象がある。そもそも正体をばらすのもビリーナがいなければもっと遅かったわけだし、オルバが重要な決断をするときにはいつだってビリーナの姿がある…と言うのは今までにも何度も書いていたけれども、このペースの速さはちょっと予想外というか、正体発覚の危機がもう来るのか?って感じでした。これもシークがいればきっと未然に防げたように思えるので、やっぱり彼が死んだのが逆風になっているわけで、ここからが正念場になるんでしょうね。彼の死が崩壊の始まりになる、かどうかはわからんし、そもそもギル・メフィウスが皇帝になることは決定されているので、まあどうするんだろうね。個人的には、良い方向か悪い方向かはわからないけどイネーリが動くんだろうと思うんだけど。自分はけっこう彼女が好きなので、活躍してくれると嬉しいなー(自分のど根性だけで立ち回っているあたりが良いね)。
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