『魔法少女のくせになまいきだ。』
『魔法少女のくせになまいきだ。』(永井寛志/スマッシュ文庫)
正直作者は小説を書くつもりがないんじゃないか、と思わざるを得ないほどに背景は貧しいし、キャラクターの造型にも作り込みを感じさせないのだが、それでも確かな面白味を感じさせる作品である。とりわけ”天然の神様”というワードに代表される、物語世界の緻密…というのとも違う、なんというか当たり前に存在する物語世界の強度のようなものに魅力をかんじるのだった。
神様というものが普遍的にいる。そういう作品内の常識を、読者に対して有無を言わさず突きつけている。”天然の神様”という言葉には、実にそれほどの言霊がある。この言霊が発せられてしまえば、読者としてはなるほどこの世界には神様が当たり前にいるんだな、そして神様にも色々な種類がいるんだな、ということが即座に了解できるわけである。それ以外にも、神様と契約するに当たっては心理テストみたいな(結果の良く分からない)質問に答える必要があり、そしてそのテストの内容が、神様の性質を体現していたりする。短い言葉の中に、多くの情報が詰まっており、その情報を読者に開陳していくことの異常なまでのストレスの無さに、作者のゲームシナリオライターとして側面を感じるのだ。
正直、自分はこの作品を読んで、その技巧に感動さえしている。良いシナリオライターが良い小説家になるとは限らないのは世の常だが、この作者の場合、小説家としての自分をある意味において放棄している。あくまでもシナリオライターとして、小説を書いているように思えるのだ。例えるならば、陸奥九十九が陸奥圓明流のままにボクシングの舞台に立った、というような(我ながらわかりやすい例えだ)。キャラの描写方法に、完全に小説の手法とは異質なものがあって、シナリオライターとしての視点でなければ、このような”キャラ描写”は決して行えないのではないか。物語そのものも、皆が知っているテンプレな展開はばっさりカットしているし、あるいは小説という”枠”からも自由であるのか、とも思える。
一種閉塞状態にあるライトノベルジャンルに、ゲームシナリオという異能感覚を持ち込んだ点は、良い仕事をしていると思うし、評価すべきだとも思う。あとは、作者本人に小説家としてやっていく気があるのか、というところに疑問感じないでもないが、まさしく余計なお世話というものだろう。
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