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2011.11.19

『戦闘破壊学園ダンゲロス』

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戦闘破壊学園ダンゲロス』(架神恭介/講談社BOX)

この物語からは、”人間”というものに対する圧倒的な肯定感を感じるので、読んでいて非常に気分が良い、と書くと、なんだまた世間一般の価値観に対する天邪鬼な感想を書こうとしているんじゃないか、と特に既読者から思われそうな気がするけど、これは誓って自分の素直な気持ちです。自分は、この小説を読んでいて、すごく心が癒されるような心地良さを感じるのだ。それがどういうことかを、ちょっと説明してみようと思います。

”人間”に対する肯定感とは何か、というところから話を始めるけれども、これはつまり、平等の感覚、と言うとちょっと誤解されてしまうかもしれないので、相対的な認識と言ってもいい。つまり「老いも若きも男も女も善も悪もそれはすべて等価値である」という感覚であり、認識のこと。これは「差別をしてはいけない、人間は皆平等である」ということではまったくない。現実的に考えて、人間は不平等だし、物事には勝利と敗北が存在するし、勝者は栄光を得て敗者はすべてを失うことになる、それは間違いないことです。しかし、平等も不平等も勝利も敗北もそれ自体はただの言葉に過ぎないと、自分は思う。つまり、人間とは同じ環境でいるのが幸せだ、あるいは負けるより勝つ方が良い、という価値観に基づいたものに過ぎないということです。例えば「人間とは生まれつき差があるのが当然だ」という価値観の元であれば、そもそも人間は平等であるべき、ということが尊ばれることはない。それはあくまでも価値観であり、不平等よりも平等の方が正しいということではないはずなのだから。

まあ、価値観そのものは良くも悪くもないのだが、問題は、価値観というものは”例外”を作るものだということ。例外とは、特定のルールにそぐわない存在を、規格外として排除することで、「勝つことがすべて」という価値観の中には、敗北した者は悪となるわけです。それは、価値観があるから敗北という”例外”が生まれることを意味する。例外があれば、人間は”排斥”したくなるものだ。そうして排斥は対立を生み、そうして世界には争い、不幸が広がっていく(まあ、あくまでも原理的な話だけれどもね)。

この作品では(そして作者には)、そうした価値観の奴隷となることから、なるべく距離を置こうというスタンスがあって、それが好ましいと感じる。つまり、カッコイイから、強いから活躍するのではなく、物語上で活躍するのは、さまざまな偶然、あるいは必然からたまたま生き残っただけであって、そこには”運命に選ばれた”、”特別な”存在だからではない、ということであって、そこには物語的必然というか、特権がない。善人も悪人も美人も醜男も能力の強弱に関わらず、みな平等にゴミのように死んでいく。そこに、価値観(良いとか悪いとかを認識する基盤)から離れた人間のあり方を描いているように、自分には感じられるのだ。

美しいことや醜いこと、優れていることや劣っていること、強いことや弱いこと、それらは”人間”としての意味には、本来ならばまったく関わりはないはずなのだ。それでも、人間はいつのまにか、強いことが凄いことだったり、優れていることが正しいことのように考えてしまっている。実際には、世界には残酷と無惨と暴虐に満ちており、善人は死に正義も無力であるが、同じくらい悪人も死に邪悪も無力なのが、”ほんとう”のことなのだ。すべては”神(と呼ばれる何か)”のサイコロの出目によって定められていること。人間は、ただ己の内にある衝動のままに自分の意思と力を振り絞って戦うだけであるだけであって、そこには価値観の入る余地など、あろうはずがないのだ。

人々の内にあるものは、希望かもしれないし欲望かもしれないし妄想かもしれない。それは問題ではなく、ただそうある(そうあるしかない)ものたちがそうあるように生きていること、それをまるごと肯定すること。それは同時にそれらすべてが同様に価値があることであり、そして同じくらい価値がないということを認識することなのだ。どんなに尊い理想も死ぬし、どんなに外道な邪悪だって死ぬ。そこにはどちらにも本質的な差異があるわけではない。ただ人間のあり方があるだけなのである(ジャンプ読者ならば、めだかボックスの安心院さんを思い起こしてみると良い)。

善人であることも邪悪であることさえも肯定したこの物語は、僕には人間賛歌の物語以外にありえないと思うのだ。

追記1。まあ、女子高生のレズがあらゆる価値観を超越した絶対正義である、と認識する作者の考えには、確かに否定しきれぬものはある。これもまた人間がそのうちに秘める衝動の一つとして、肯定されるべきものであろう。

追記2。コミカライズ決定おめでとうございます。次はゲーム化ですね。エログロはなくしてほしくないので(それが残酷というもの)、やるならエロゲーでしょうか。アリスソフトが作ってくれないものかなあ。

追記3。僕は邪賢王ちゃんが好きです。

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