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2011.11.29

『烙印の紋章(9)』

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烙印の紋章(9)』(杉原智則/電撃文庫)

作者の”死”の扱いが良くわかってホッとした。無用なドラマティックさ、というのはちょっと貶しているみたいだけどそういうことではなくて、あくまでも”死”というのはあらゆる人間に平等な出来事のはずであるということを、作者はきちんと踏まえているのだと言うことがわかったと言うことである。つまり、主人公にとって極めて重要な存在の生死については、勢いドラマティックで派手なものにしたいというのはハリウッド映画ならずとも、ストーリーテリングに携わるのならば抗しがたい欲望であると思うのだが、そこを抑制したところは作者の見事さであるのではないか、ということだ。

どんなに主人公に重要な存在であろうとも、死ぬときは死ぬし、その死がドラマティックに演出されるとは限らない。主人公の与り知らないところで死んでしまうのかもしれないし、末期の一言を残すことも出来ないのかかもしれない。名誉のある死かもしれないし、逆にその死を讃えることも出来ない状況かもしれない。まあ、実際問題として、すべての死をそのように描くのは困難であろうと思うけれども、少なくとも作者の中には、”死”はただ”死”であり、それがもたらされるものは変わらない、という考えが見えることは、とても大切なことのように思える。

これは、”死”は残酷なものだとか、そういうことが言いたいのではなくて、そもそも、残酷だとか無惨だとか、そういうものとは関係のない事柄だと言うことだ。残酷だとか無惨だとかは、解釈の問題であって、実際にはあまり関係がない。というか、解釈の問題でしかない、ということだろうか。まあその辺りにはあまり興味が沸かないのであれだけど(だったら最初から書くなという話だ)、ただ人が死ぬことについて、なんの解釈もしないまま放り出して、読み手に全部任せるような描写があって、これはすごく良いと思った。まあ作中人物は色々”解釈”しているけど、これはこれで当然と言うか、解釈に幅があるように描かれているのも良かったと思う。

あとストーリー的なことを言うと、オルバが部下の命の重み、というものにようやく目覚めたというところで、自分ひとりで戦っていて、自分以外のものに興味がなかったオルバも正しく成長しているなあ、と思った。はっきり言って、そういうところに躊躇っているオルバは非常にかっこ悪く、初期オルバの方が果断だったと言う言い方も出来る。だけど、この辺りが正しい意味での王道というか、まさに王の道という意味でのそれであって、逆にそういうことを考えなかった初期のオルバがどれだけ迂闊というか”幼かった”ということが分かるとともに、そういう無自覚な時期を描くことによって、今ここにあるオルバの”無様”が意味を持つようになるのだろう。無知というものがどれだけ罪深いものかが良くわかる、という言い方をしても良いと思うけど。

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