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2011.10.21

『六花の勇者』

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六花の勇者』(山形石雄/スーパーダッシュ文庫)

山形石雄は、ライトノベル作家としては、もっとも駆け引き系バトル漫画の素養を継承している作家だと考えている。駆け引き系バトル漫画とは、別にそういうジャンルがあるわけではなく、ぼくがたった今そう読んでみただけではあるが、正直、あまり上手い呼び方ではない。今後の課題にしたところだが、それはとりあえずどうでもいい。例を挙げれば『ジョジョの奇妙な冒険』や、近年では『HUNTER×HUNTER』などが、自分の考える駆け引き系のバトルマンガにあたる。

駆け引き系バトル漫画が通常のバトル漫画と異なるところは、能力の多様性が上げられる。駆け引き系において、主人公たちが持つ能力は、必ずしも他者から特別に抜きん出ているとは限らない。無論、主人公ゆえに何らかの強力な力であることも多いが、一方で制約や弱点があるなどして、全力を振るえる状況が出来ないということがあったり、また、能力には相性があって、ある能力には滅法強いが、別の能力には無力であったりする。そこには能力の絶対評価はなく、相対的にのみ評価されることになるのである。

山形石雄の描く物語は、前シリーズの『戦う司書』からして、完全に駆け引き系のバトルものであった。それぞれ強力な異能(魔法)を持った超人たちが、それぞれの能力を活かし、相手の弱点をつく。そこには能力の”強さ””弱さ”は絶対的な価値を持たない。ただ石油に変身するしか出来ない能力者が、一国を滅ぼす力を持った能力者たちに壊滅的な被害をもたらすことさえあるのだ。

今回の『六花の勇者』の話である。今回の物語も作者一流の想像力が発揮されていると言えよう。ただ、状況は限定的なものとなっているようだ。とある限定空間に囚われた主人公たちが、自分達の中にいる敵が誰なのかと疑心暗鬼となっていく。その中で裏切り、あるいは協力していく駆け引きは、まさに駆け引き系バトルの醍醐味と言える。

誰が敵で誰が味方なのかも分からず、誤解が誤解を呼び、よりによって仲間達から”裏切り者”と認識されてしまった主人公は、仲間たちからの苛烈な攻撃を潜り抜け、時に誠意を込めて説得し、時に詐術を用いて罠に嵌めていく。主人公は、超人的な魔法や武術を身につけた仲間たちに対して、唯一、特殊な能力も才能も持たない。極限の修練を修め、己の限界を極めてはいるものの、元来が凡人である彼には、勇者に相応しい超人である仲間達に及ぶものではない。勢い、彼の戦いは、相手の能力を見極め、細い糸の上を渡るがごとき綱渡りなものとなる。正面から戦っては勝ち目などなく、それゆえに、彼には詐術と、度胸と、なによりの精神力で立ち向かうことになる。圧倒的な強者に対して、意思の力で対峙していくところなど、少年漫画的想像力である。そこには、紛れもなく友情、努力、勝利があるのだ。

ただ少年漫画とそのまま小説にしたのではなく、それを”小説”として構築しなおしているところが、作者の非凡なところである。一つには、主人公のキャラクターが上げられる。彼は先ほども書いた通り、基本的には凡人である。しかし、同時に自らを「地上最強」とうそぶくことを止めないのだ。それだけならただの愚者ではあるのだが、むろん、彼が地上最強などではないことなど、誰よりも本人がわかっているのである。それではなぜ、彼は非現実な言葉を発し続けるのか。それは、かつての自分の無力さに絶望し、それによって大切なものを失った彼が、無力でいることを否定したからだ。それが彼の「地上最強」という言葉の根幹である。「地上最強」にならなければ、彼は”勝利”することは出来ない。「地上最強」でなければ、何も為せぬままに死ぬるだけ。彼は、自分から大切なものを奪ったすべてを戦い、勝利しなくてはならないのであり、そのためには「地上最強」でなければならない。彼は地上最強なのではなく、地上最強であらねばならないのだ。

それは子供の夢想である。現実を見ない愚か者の愚行である。しかし、彼は子供の夢想を現実することを選んだ。全身が砕け散るほどの絶望と、己すべてを砕くほどの修練を乗り越え、ただすべてに打ち勝つ存在となることを選んだ。それは現実に打ちのめされ、挫折の味を知りながらも、それでも天に手を届かせようとする絶望的な行為である。おそらく、主人公はいずれ破滅するであろう。それでも、子供の夢を諦めず、手を伸ばし続ける。

そこにジャンプ漫画的な想像力と、現実との葛藤の、描きがあるように思うのである。これが”小説”という形態で描かれる意義があるとすれば、おそらくそのようなところにあるのではないだろうか。

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