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2011.09.03

『狼と香辛料(17)Epilogue』

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狼と香辛料(17)Epilogue』(支倉凍砂/電撃文庫)

エピローグと銘うたれているだけあって、まさに全編が”終わり”の予感に満ちた作品となっている。ここで言う終わりというのは、あくまでも”物語”としての終わりであって、彼らの人生とは異なるものだ。物語は、人から人へつながり、語り継がれる。狼と香辛料(商人)の物語も、おそらくは他の多くの物語と同様、人々の間に語り継がれることになるのだろう。彼らが関わった商人や村人たち、彼らが救った人々、敵対した人々、利用しあった人々、助けてもらった人々。ロレンスとホロの旅は、彼ら二人だけで為したものではなく、商売という、人と人のつながりを運ぶ旅であったのだし、彼ら自身の物語もまた、多くの人のつながりに運ばれていくに違いない。

”終わり”とは、”物語”としての終わりである、と書いた。すなわち、二人の”旅の物語”である。ゆえに、彼らの旅の終焉が、物語の終わりになる。だが、一つの物語の終わりは、別の物語の始まりでもある。二人で旅をする物語は終わったが、二人で供に生きる物語はこれからも続く。その物語が、果たして今までよりも穏やかなものになるのか、それはだれにも分からない。つまるところ、終わりとは始まりでもあるのだ。

彼らはこれからも生きてゆくし、そして死ぬ。だが、彼らが死んだとしても、物語は終りではない。彼らを知る多くの人々が語り継いだ、”彼らの物語”が残るうちは、彼らの生は消え去ることはない。多くの人々の口の登るであろう、狼と香辛料の物語。その物語は、なにげない街の片隅で、ある幼子が口ずさむ歌の中で、ばらばらに、調子はずれに、語り継がれるのかもしれない。そして、それこそが永遠である、ということなのだ。

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