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2011.09.13

『トカゲの王(1)』

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トカゲの王(1)』(入間人間/電撃文庫)

非常に面白く読めてしまった。入間人間の伝奇アクションなどというのだから、どうせ伝奇でもアクションでもないんだろうと思いきや、それはいろいろな意味で裏切られたのだが、その裏切られ方は、なかなかに好感の持てる裏切られ方だったのだ。

まず、伝奇もアクションもでないだろう、という自分の予想は外れていた。予想以上に、まともな伝奇アクション的な世界背景がある。特殊能力者が増えつつある世界で、そうした能力者は闇の世界で抗争を繰り広げている。そうした異能の持ち主は、当たり前の世界で当たり前の生活を送ることは出来ず、その能力を活かせる(あるいは、活かすしかない)世界で生き延びてゆく。まずもって、この点は伝奇アクションの王道であろう。

だが、そうした世界の中で描かれるのは、伝奇でもアクションでもなかった。伝奇アクションの世界設定を構築しながら、そこで描かれるのは、(ある意味、いつも通りの)奇人変人、あるいは頭のネジが一本外れている人々が、ひたすら己の思考を垂れ流すだけの世界である。非常に自己主張の強い自意識過剰な人間がそれぞれに己の自我を主張するという、ある意味において、いつも通りの入間作品である。

ただ、そうした自意識過剰なキャラクターと、異能バトルを組み合わせは、不思議なことにとても面白く感じる。異能バトルの設定を使いながら、異能バトルのセオリーをまったく無視しつつ、しかし、入間先生なりに消化しようとした結果、なんとも形容しがたい不思議なしろものになっている感じがある。入間人間はそれほど器用な作家ではないと思うので、本人はわりと真面目に書いているんじゃないだろうか。作者なりに異能バトルをやろうとして、それなりに真面目に書いたのに、結果的に、おかしなものが出来上がった、という感じがするのだった。

なんとも不思議な作品なのだが、その不思議なところに魅力を感じるのも確か。個人的には、ちょっと慎重に扱いたい作品だ。瑕疵のない傑作とはまったく思わないが、いろいろと面白いところもあり、しかし、それがきちんとした計算の下に生まれたものかどうか(偶発的なものかどうか)が分からない。まだその真価をきちんと言語化できるところまでは理解出来ていないので、もうしばらくこの作品の進む方向を見てゆきたいと思う。

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コメント

なんとなく、最近の伊坂傾向から、グラスホッパーを伝奇ラノベっぽくしようとしたのかなと思いました。入間節のメタっぽい合いの手はいつも通りなので、この手の作品への皮肉かどうか迷いますが。

投稿: | 2011.09.14 15:20

入間先生が、おそらく伝奇アクションへのアンチテーゼとして書いている可能性はあるかもしれません(皮肉、まで言ってしまうと強すぎのようにも思いますが)。従来の伝奇アクションを参考に、そこから外れていこうとする意図を感じますね。

ただ、外れるだけでは物語に将来性があるとも思えないので、そこがどうなるのかなあ、と。

投稿: 吉兆 | 2011.09.14 23:32

失礼しました。皮肉、は言い過ぎですね。
今後の展望については同感で、この手の話に特有の設定に付随した奥行きをどうやって持たせるのかが課題になるのかなと感じました。もしかしたら、案外とこのまま成田作品、というかデュラララみたいになるのかなと想像しましたが、それだとアンチテーゼを狙うなら弱いですしね。
多作なので、ペース的には他の作品と並行しながら徐々に世界を膨らませていくのかなと思ってます。

投稿: | 2011.09.15 00:15

こちらこそすいません。あくまでも、個人的な意見です>皮肉。

デュラララみたいということは、群像劇として能力者たちの物語を描く、ということでしょうか。なるほど、そういう可能性はあるかもしれませんね。入間先生の群像劇というのは未知数なように思いますが(今まで群像劇は書かれていたかな?)。

言われて気がつきましたが、これも他シリーズと世界観を共有しているのでしょうか……。

投稿: 吉兆 | 2011.09.15 07:27

単巻完結の作品にはそれらしい端緒も見えるとは思っています。>群像劇
あと、みーまーの一部なども。伊坂的な作風が混じってきたなと感じていた頃と同時期だったかと。

自意識を扱った異能力者物だと先祖返りでブギーみたいになるのかなとも思いましたが、比重的にはあそこまで世界の謎などSF方向に突っ込まないで、物語を個人の方にフォーカスするのでは、と思ったので。>デュラララ
ブギーの場合、良くも悪くも話(話の一つ一つ)自体はキャラが話を綺麗にまとめていく要素になっているので、背後にある世界の方も見えやすいのですが、この人の場合、それよりも人間同士の関係性に比重を置いた方がいつもの空気が出るのではないかなと。

文中(きちんとした計算の下~というのは、こちらの考える文脈ではないかもしれませんが、ご容赦下さい)で仰られているように、自分もこの作者は、例えば西尾維新のような、さらっと作品でジャンルに言及してしまったり、テンプレートからはみ出さず、それでも際立つキャラを作るような器用さはないと思っています。
ただ、それが魅力になるのは、テンプレキャラを作っても自意識が削りきられず人間くさくなったり、そんなキャラが織り成す人間模様の泥臭さが要因ではないかと。
本気で奈須きのこや禁書のような伝奇ライトノベルをやろうとするには、やはりテンプレに収まりきらない・収めようとしないキャラや設定がネックになってしまうでしょうし、でしたら、いつもの雰囲気に近づけていく方が作者らしいかなと思いまして。
巧く言葉にできないのですが、作者は「本気で中二ラノベをやる」のに気恥ずかしさのようなものがあるのでは、と感じています。と言っても、本気でやられたとしたら、こんなの入間作品じゃない、と言ってしまう自信がありますけど(笑)。

今のところ他の物語と繋げやすい空気はありませんが、パラレルな形や、小物関係で繋がることはあるかもしれませんね。
作者の作る世界全体が作品の枠になっている、というと、言いすぎかもしれませんけれど。
もしかしたら、時間軸以外は全部繋がってるのでは、と考えていたりします(笑)。
長々と、連続でのコメント、失礼しました。これからも参考にさせて頂きます。

投稿: | 2011.09.15 23:27

>単巻完結の作品にはそれらしい端緒も見えるとは思っています。

うーむ、そうですか。正直、あまり群像劇に向いているタイプとも思えないんですが、これは僕の過小評価すぎたということでしょうか。

>器用さ

僕が入間人間を評価するところがあるとすれば、その不器用さですね。入間先生は、正直、器用に際立ったキャラ描写が出来ない、洗練された物語構成とも縁がない、と思います。しかし、そこにコケの一念と言いますか、ひたすらに”ひねくれたこと”を”貫き通す”意思のようなものを感じるのです。

正直、いばらの道であり、将来性があるのかどうかも分かりませんが、そういうのも、嫌いじゃないんですよね。

投稿: 吉兆 | 2011.09.16 20:27

>群像劇に向いている
向いているかどうかだと、向いてないなと思います(苦笑)
群像劇をやろうとしたんだなと感じる作品などがあった、という感触が近いかもしれません。

《捻くれたことを貫く》というのは、多分これが言いたかったことなのだなと自分で遅まきながら感じてます。
デビュー初期はともかく、今なら文章はやろうと思えばもっとコンパクトに読みやすくできるだろうにと感じてましたが、読者層に応えるためと思っていた余分な描写も、もしかしたらそう書かずにはいられないからだったのかなあ、と。

吉兆さんの感想は要点を抑えているので見習いたいなと常々思ってるのですが、なかなか巧くいきません(苦笑)
お手数煩わせてしまい申し訳ないです。twitterなどはやっていないので、お返事頂けて幸いでした。アンテナが弱いので、ライトノベルで買っている作品はここで紹介されたものばかりになっています(笑)

自己満足の補足なので、こちらは気にしないで下さいませ(コメント欄を余分に使ってしまい、すみませんでした)

投稿: | 2011.09.17 18:36

>群像劇をやろうとしたんだなと感じる作品などがあった、

なるほど。入間先生も、自分の枠を広げて、出来ることを増やそうとしているのかもしれませんね。

>もしかしたらそう書かずにはいられないからだったのかなあ、と。

まあ、そうだとしても、読者に対する嫌がらせみたいな描写を好んでするあたり、作家としてどうなのかという気もしますが(笑)、そういうひねくれずにはいられない業のようなものは好きですね。

>お手数煩わせてしまい申し訳ないです。

いえ、むしろこういう話が出来て、僕も楽しかったです。褒めていただいた「ひねくれたことを貫き通す」という言葉も、コメントを書いている時に思いついたものですし。ここで話をしていなかったら、出てこなかったと思います。

あと、正直、僕の読んでいる(そして褒めている)ライトノベルは偏っているので、あまり真面目に受け取らない方がいいかもしれません(笑)。

投稿: 吉兆 | 2011.09.17 22:46

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