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2011.08.12

『オブザデッド・マニアックス』

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オブザデッド・マニアックス』(大樹連司/ガガガ文庫)

ゾンビ小説のお約束を徹底的に踏襲しつつ。そのすべてが別の様相を見せるという、言うなればメタ・ゾンビ小説とでもいうべき作品だった。まあ、それはそれとして、非常に楽しい娯楽たっぷりなエンターテインメントであることは間違いない。ゾンビ映画のお約束を踏まえつつ、それとは別の領域に持っていく。このあたりのやり口は、非常に作者らしくてさすがであった。本当に作者がそのように考えてるのかは知らぬ。

主人公は世界が突然滅んでゾンビが蔓延しねーかなー、などと無双するゾンビ好きで健全な高校生。まあ、およそ高校生たるもの、世界の破滅の一つや二つを妄想していてしかるべきであるよな。その意味では彼は平凡な人間であり、そんな平凡なる彼が、なぜかとある島にやってきて、補習を受けているところから物語は始まる(しかし、この展開も相当に不自然なものがあるのだが、それを突っ込むのは狭量というものだ。なぜならゾンビと隔離された孤島は切っても切り離せない、とまでは言わないが、タンメンに野菜を入れるぐらいには自然な組み合わせだからである)。そして、唐突にゾンビが発生し(この展開も以下略)、主人公はついに、自分の待ち望んだ非日常がやってきた!と歓喜するわけだが、しかし、いつも思い描いていたようには、彼は行動できない。ゾンビは人間と同じ姿をしており、従って、人間を殺すのと同じように、ゾンビも殺しにくいのである。血だって出るし、脂だって滑る。それは現実である。そして、現実を上手く生きれないから、彼はゾンビ映画に逃避していたのであった。ここで、なんとも皮肉的な、ある意味でしょーもない結論が導き出される。現実となった非日常の中では、彼は現実ではいつだってそうだったように、彼の居場所などはなかったのであった。これまた皮肉なことに、彼の友人たちの中では、非日常に叩き込まれたことで、本来の資質が開花したものがいる(それこそ映画のように)。日常の中でもともと持っていたスキルや能力が、非日常の中ではなによりも重要な力として発揮される。そして、彼らは己に対する肯定を為すことで、成長していく。まさに映画であり、正しい物語がある。そして、主人公には、それすらも与えられないのである。ただ、ゾンビ映画のセオリーを熟知している、ただそれだけの主人公には、成長を行えるだけの実感を得ることが出来ない。自分が愛した非日常の中で、一人取り残される。

ところが、物語はさらに反転する。ゾンビで引っくり返った世界が、さらにひっくり返る。ゾンビ世界の中で活き活きとするものたちによる、新たな世界秩序が起こり、かつての世界を排斥しようとするのだ。そうして、非日常がさらに覆される。非日常が反転したとき、そこに現れるのは、すなわち日常である。だが、日常が反転し非日常になり、そこからさらに反転して表われた日常は、厳密には、元通りの日常とは異なる。本来の日常の、複雑骨折したような世界が、あらたに表われた日常であるのだ。そこでは、本来の日常の、醜悪なパロディが繰り広げられることになる。本来あるべきヒエラルキーは崩壊し、ゾンビ世界で生き抜くための新しい階級が生まれる。だが、それはスクールカーストと本質的にはなにも変わるところはなく、階級を支える土台が変化したに過ぎないのであった。そのことに、主人公が早くに気がつくことが出来たのは、さらに皮肉なことに、彼が非日常からも取り残されていたからである。日常が崩壊した非日常の中で、それでも彼はいつも通りの疎外感に苛まれていた。非日常さえも、彼にとっては日常と変わるものではなかった。それゆえに、彼は、非日常が反転した日常の、その醜悪さに気がつくことが出来たのである。日常が反転しようと、非日常が反転しようと、彼にとっては、なにも変わることはなかった。ただ、強い違和感を覚えたのだった。

どの世界からも取り残され、落ちこぼれる主人公。だが、だからこそ、彼が語れることがある。日常からも、非日常からも取り残された”弱者”である主人公だからこそ、彼は、強者が弱者を虐げるシステムそのものに、”反抗”することが出来るのだ。彼だけが、あらゆる状況の中で、”強者として弱者を虐げていない”ゆえに。彼だけが、唯一絶対なる”弱者”として戦うことが、強者が弱者を虐げて良いとするシステムを糾弾することが出来たのであった。そうして、偽りの日常は崩壊を迎え、世界はもとの世界に戻る。結局は、主人公が嫌悪し、憎悪し続けてきた日常に回帰するのである。だが、それはすべてが元通りであることを意味しない。彼がシステムに立ち向かったという事実は残っている。なによりも、主人公自身が、それを知っているのだった。彼が”弱者”であることを言い訳にすることは無いはずである、少なくとも、彼がその事実を忘れない限りは。世界はいつだって、隙あらば食らいつこうとするゾンビの如く、人々を狙っている。戦わなくては、生き残れない。それは、日常だって、非日常にいたって、変わらないことなのである。

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