『ミスマルカ興国物語IX』
『ミスマルカ興国物語IX』(林トモアキ/角川スニーカー文庫)
いや、素晴らしい。物語のエンジンがものすごい勢いで回転している感じ、というのはいささか抽象的すぎるけど、とにかく素晴らしい。林先生のダイナミックな作劇が見事に物語と合致しているように思います。個人的に、おお!?とこの作品の見方が変わったのが7巻、つまり、ミスマルカ征服のあたりからなんですが、そこから、物語の速度が突然加速したんですね。それまでは、聖魔杯を探して~帝国と小競り合いをして~舞台となる国の陰謀に関わって~、と、ある意味、パターンに入っていたように思います。それはそれで面白くはあったんですけど、結局、物語としては一話完結的で、もちろん、そこで張られた伏線はいくつもあって、それが物語をつなげていたわけですが、それでも、いささか大人しい印象を受けていました。なんと言うか、物語はマクロの志向を持っていたんですが(国と国のあり方の問題ですからね)、マヒロたちがやっているのは、どうもミクロな話に終始しているというか、一部の例外の除いて、ごく個人的な冒険をしていたように感じたんです。
しかし、ミスマルカという足枷(という言い方は悪いけど、マヒロがどうしてもそこに帰ってこなくてはならない、という意味)から解き放たれたマヒロの物語は、一気にスケールアップした感があります。お前ら、今まで必死こいて集めていた聖魔杯はどうした、とツッコミたくならないではないぐらい、帝国内部に侵入したマヒロは謀略を楽しそうにやっていますね。ここから、物語は帝国側から大陸を統一するという物語が(ようやく)発動し、今までのパターンから脱したように思います。まあ、まだわからないですけどね、そう思った方が楽しそうなので、今のところはそう思うことにします。なにしろ、今まであくまでも帝国へのカウンターだったので、どうしても話が小さくなっていたように感じてしまっていたので(言いすぎかな?)、僕はこの展開はすごく楽しく、ようやく物語が本格的に始まったような気さえします。
あと、僕が楽しくて楽しくてしょうがないのは、帝国の三皇女たちがいるから、というのもあります。前巻で、ルナスのヒロインぶりがヤベエ!という話をしたと思いますが、今回はシャルロッテがヤベエ!という話になりました。具体的になにがヤベエかと言うと、下手をすると主人公交代の危機クラスのヤバさです(林先生ならやりかねない)。ルナスはあくまでもヒロインですが、シャルロッテは、マヒロとのキャラクター方向性の類似と、そしてマヒロ以上に映えるキャラクターであり、つまり彼女はマヒロの上位互換系のキャラクターに当たります(系というのは、あくまでも似ているだけであり、同一ではないためです)。そのため、少なくとも今巻に限って言えば、ハチャメチャ帝国皇女の破天荒な活躍を描いた物語以外のなにものでもなくなっていますね。マヒロは主人公の弟で、姉のひどい暴走にひどい目に会う役回り(ほら、そういうラノベ、ありそうでしょ?)。シャルロッテはなにがどうなってもヒロインというポテンシャルでは収まらないキャラクターで、しかし、そんなキャラクターをポンっと(主人公が食われることを恐れず)登場させてしまう林先生は本当に凄いなあ。正直、畏敬の念を押えられませんよ。なんでこれで物語が破綻しないのだろうか……あるいは、破綻したらしたで、それもまた良しと思っているのかもしれませんね。かっこ笑…えねーなー。
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コメント
チーッス。
旧ミスマルカの『ちぐはぐ』感はなんとなく感じてました。こう、話のスケール(聖魔杯の影響力とか)の割にやってる事がちまいよなぁ、みたいな。『お・り・が・み』も今考えるとそういう感じしますね(アレぜってー国連とか動いていい話だよな)。
なんか作品の短所言ってるみたいですが、しかし頑張って探さないと今みたいに思い出せないのがトモちゃん(林先生)の凄い所ですね。
長文失礼しました。
投稿: もじのくまさん | 2011.08.25 23:55
最初の方も、あれはあれで面白くはあったんですが、面白さに騙されて細部がどうでもよくなるほどではなかった、みたいな感じでした。
まあ、林先生の作品は、細部の粗探しをしても面白くならないタイプの作品なので、気にした方が負けのような気もしますけどね。
投稿: 吉兆 | 2011.08.28 00:59