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2011.07.04

『虚構推理 鋼人七瀬』

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虚構推理 鋼人七瀬』(城平京/講談社ノベルス)

城平京は、名探偵の敗北を描いてきた作家である。デビュー作の『名探偵に薔薇を』を初めとして、漫画原作のスパイラルなども含めて、”厳密に論理を追求していくと、不可避的に敗北してしまう探偵”を描いてきた。つまり、論理というものは、言ってしまえはただの理屈であって、”唯一の真実などではない”ということである。屁理屈という言葉もあるように、どんなにおかしな理屈にだって、一定の理がある。いかに厳密に理を通そうとしても、理というもの曖昧さに、名探偵は裏切られてしまうのである。そのため、城平京作品においては、常に、厳密なる論理を通しながら、最終的に、論理を飛躍するという過程を得ることになるのである。

今作においても、それは例外ではない。虚構推理、というタイトル通り、今回のテーマは、フィクション、それも都市伝説である。フィクションとは虚構であり、従って、そこには”現実的な理”は通らないのである。なぜなら、虚構である以上、その理屈をいくらでも捻じ曲げることが可能なのだ。それこそ、物理法則にさえ、従う必要はないのだ。いかなる理屈も通す必要がない都市伝説に対して、そこに、推理をしようという取り組みは、不毛である。そもそも、推理しようにも、都市伝説には理屈が通らないのだ。理屈が通らない出来事に対して、推理は無力なのである。つまり、この作品において、名探偵は、戦う前から敗北を運命付けられているといってよいのだ。

だが、そうではない探偵がいる。彼女の名は岩永琴子。彼女は、理屈ではない理屈を通し、推理ではない推理を行う。現象に理屈で解析するのではなく、現象に理屈を押し付ける。彼女が行うことは、真実を明らかにするのではなく、真実を創り出すのである。真実とは何か?それは最も多くの人々に共有される”幻想”である。多くの人々によって、真実だと”認識”されたものである。彼女は巧みに嘘をつく。言葉で。論理で。事実と証拠を積み重ねて、何よりも確かな”嘘”をつく。彼女にとって、理とは神ではない。ただの道具であるのだ。

この物語は、名探偵の敗北であろうか?然り。真実は闇の中に消え、犯人はいずこかに消えた。だがそれは、岩永琴子の敗北であろうか?否。真実を闇に葬ることこそが彼女の使命である。この物語は、彼女がいかに厳密に論理を展開し、大衆を扇動し、己の認識を押し付ける物語である。真実などなく、論理は非論理に敗北するのであれば、非論理を武器にすることで、非論理に勝利する方法こそが、虚構推理。非論理を武器にする探偵、それが虚構探偵である。

だが、虚構探偵もまた、論理を武器にするものであるのだ。すなわち、論理的に非論理を用いるものだ。つまり、敗北した名探偵は、虚構を武器にすることで、ついに勝利を果たした。そのように考えることは、なかなかに面白味のあることのように、自分は思うのである。

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