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2011.07.03

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(8)』

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俺の妹がこんなに可愛いわけがない(8)』(伏見つかさ/電撃文庫)

さまざまな紆余曲折を経て、ようやく高坂さん家の兄妹は、普通の兄妹になったようだ。というのは、この二人は急速すぎる速度で和解してしまったため、お互いの距離感を完全に見失っていたように思うからだ。とくに、恋愛編とも呼ぶべき5巻以降の関係は、非常にに危うい関係であったと言える。いつ最後の一線を越えてしまうのか、分からなかったほどだ。妹は、兄がまるで自分のすべてを受け入れてくれる運命の王子様だったんじゃないか、ってくらいの大好きっぷりで、兄は兄で、妹のことが好きなくせにそれを受け入れていないツンデレっぷりを発揮しているし、もう二人それぞれが意識している距離感がちぐはぐでグチャグチャになっていて、もはやカオスであった。たぶん、二人とも溝が埋まったことに、舞い上がってしまったのだろう。

その混沌は前巻でピークに達していた。しかし、最終的に、京介が妹に対してシスコンカミングアウトを行ったことで、ようやく小康状態を取り戻すことが出来た。これは、京介が、自分の持っている距離感を言葉にしたことで、桐乃も、自分がどの距離にいれば良いのか、ようやく収まりがついたのだと思われる。そもそも、言葉で、そうしたことをやりとりすることも、この兄妹は出来ていなかったのだ。お互いの考えていることを言葉にすることで、ようやく距離感の落とし所を見つけることが出来たのだった。

しかし、京介のカミングアウトは、桐乃に、一つの屈託を与えていたと思われる。つまり、京介があくまでも妹に対する距離感を告白したため、桐乃は、自分を妹としての役割に置くしかなくなってしまった、という事である。いや、妹であること自体は、別にかまわないのだが、問題は、その事実に、桐乃が萎縮してしまった(ように見える)ということだ。個人的に、妹であっても、兄に対する独占欲とか、そういう感情を全開にしてもかまわないと思うのだけど、この巻に入ってからの桐乃は、どうも物分りが良過ぎる。黒猫が恋愛相談をしてきたときも、京介と黒猫がいちゃいちゃしているのに対しても、なぜか、一歩引いて、接してしまっている。まるで、模範的な妹を演じているかのような、模範的な距離感なのだった。

おそらく、桐乃は京介に対して”遠慮”してしまっているのだろう。前巻における暴走の、おそらく反動であるかもしれない。つまり、桐乃が思って(想って)いるような形では、京介は思っていない、と桐乃は受け取ってしまったため、自分を模範的な”妹”としての立場に押さえ込もうとしているようにも思えるのだ。正直なところ、京介のツンデレ具合は筋金入りであって、前巻で口にしたことも、果たしてどこまでが、彼の本心であるのかは疑問である。言葉の端々に、ただのシスコン以上の感情を垣間見ることが出来る。まさに”信用のならない語り手”の真骨頂といえるだろう。従って、読者の立場からすれば、桐乃はそこまで萎縮しないでもいいのになあ、と思ってしまうのだ。

そして、今回、読者(自分)の意見を代弁してくれたのが、黒猫であった。彼女が京介に告白した本当の意図はいまいちよくわからないが(最後の告白が本心とは思えない)、すくなくとも、別れを切り出した理由は、桐乃を炊きつけるためであった……のだと思う(いまいち自信がない)。少なくとも、彼女にとって、桐乃から”兄を奪う”ことは理想の結末ではまったくなく、兄妹の両方ともが欲しいようなのだ。実に欲張りな女である。ともあれ、彼女の行動によって、京介は妹に対して自分の弱さを吐露することが出来、桐乃は、兄に対して自分が何を出来るのかを理解することが出来た。言葉ではなく、行動によって、二人は新しい関係を得ることになったのである。

そうして、桐乃は、”兄”に対する新たな距離感を得た。それは、ちょっとわがままで、兄を振り回したがる妹だ。ちょっとスキンシップも過剰だし、ちょっと兄に対する独占欲も高すぎかもしれない。つまり、桐乃はわがままになった。もともとだったという説もあるがそうではなく、わがままであるのを隠さなくなったのだ。彼女はこれからは、わがままを言うためだけにわがままを言うだろう。邪険にしながらも独占欲をむき出しにするだろう。兄に対する執着心も、そんなに変わらないかもしれない。だけど、そこには、距離感の測り間違いによる、誤解は、たぶん、生じ難くなるのではないだろうか。なぜなら、妹はいつまで経っても妹だし、兄はいつまで経っても兄なのであり、それは何が起ころうとも、決して変わることのない関係なのだろうから。

まあ、だからと言って、それ以外の関係にならないとも限らないわけだけど。黒猫は、ちょっと敵に塩を贈り過ぎじゃないかとも思うけれど、まあ、そういうプライドの高さはわりと好きなので。がんばって欲しいものです。

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