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2011.07.29

『七姫物語〈第6章〉ひとつの理想』

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七姫物語〈第6章〉ひとつの理想』(高野和/電撃文庫)

作者のバランス感覚は、最後まで、七姫の誰にも特別な肩入れをすることなく、常にフラットな視線を保ったままであった。これはなかなかすごいことなのではないかと思う。物語が続くにつれて、どうしても主軸となる物語が発生してしまうのは避けられなく、主軸が発生すれば対軸が生まれてしまうように、平等な視点を保ち続けるのは難しいものなのだが、作者は(微妙にあやしいところもあるが)あくまでも、どの姫にも肩入れしすぎることなく、描いている。物語を盛り上げようとすると、どうしても視点というのは偏ってしまうものだが(誰かの視点に”偏向”しなくては、ひと続きの盛り上がりを作ることは難しい)、その誘惑に最後まで抗ったという点は、きちんと賞賛されるべきだろう。

また、こうした、作者のリアリズムへの欲求は、最終巻となる今作でも十分に発揮されている。最終巻となると、いわゆる盛り上がりというものを意識したくなるのが人情であるが、そうした盛り上がりを、最後まで退け続けているのだ。七宮は、確かに歴史の潮流としては重要な役回りを果たしているものの、それはあくまで全体を見たときの話だ。物語的に重要な役割を果たしているのは、二宮であるし、更にいえば、一宮の干渉も大きい。そのように考えると、最後まで、七宮にとって、爽快感のある展開とはいえない。だが、それこそが、この物語の良いところなのだ。今回の物語は、七都市が争う歴史のほんの1頁であり、その争乱を、あくまでもカラスミという一人の少女の視点から描く、というラインを最後まで越えることはなかった。戦乱を見続け、しかし、必ずしもそこから何がしかの教訓や、わかりやすい成長なども描かれることはなかった。ただ、目の前で起こる出来事を、受け入れ、噛み締め、そして周囲の人々に感謝する少女の姿を描く。それがとても良かったと思う。

なぜなら、歴史から教訓を得るのは、いつだって後世の人々であって、歴史の中に生きる人々にとっては、それは日常であるからだ。そこにいる人たちにとっては、その日を生きることが、唯一の、そして最大の目的であっただろう。そのことを忘れ、大きな流ればかり見ていると、足下がおろそかになることがある。その愚を避けて、あくまでも、地に足をついた描写から離れることのなかった点に、物語を誠実に語ろうとする作者の姿勢がよくわかるように思えるのだった。

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コメント

はじめまして!

突然ですが、相互リンクしていただけませんか?
まだブログはじめたばかりなんですが、ここのブログで私の好きな本がたくさん紹介されて気になりました。
できればよろしくお願いします!

投稿: 神坂 | 2011.08.02 06:59

原則的に、このブログは、リンク及びアンリンクフリーです。

リンクなどはお好きなようにしてください。連絡などもとくには必要ありません。

よろしくお願いいたします。

投稿: 吉兆 | 2011.08.02 21:32

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