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2011.07.26

『”葵” ヒカルが地球にいたころ……(1)』

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”葵” ヒカルが地球にいたころ……(1)』(野村美月/ファミ通文庫)

野村美月とは、息を吸うような自然さで、物語を紡ぐ作家だと思うのだ。むろん、本当のところはわからない。あくまでも、僕の印象に過ぎない。だが、作者の描く物語には、不思議と肩の力が抜けた印象がある。それは手を抜いているのとはまったく違うもので、どちらかと言うと”余裕”と呼べるものに近いのかもしれない。物語がどの方向に向かおうとも、何を語ろうとも、その全てを肯定し、受け入れる。作者の筆致には、いつもそのような柔らかさを感じられるのだった。それは、あたかも、作者の愛情のようである。作者自身が、自身の描く物語が、好きで好きでたまらない。愛する子供が歳を取ってもどんな人生を送ろうとも、それでも愛しむ母親のように、作者は、物語がどのような形であったたとしても、喜んで受け入れる。それと同質のものがあるのではないか。物語が物語ることを、なんの疑いもなく受け入れることが出来るのだとすれば、それはまさしく作家というものの天性というものであろう。繰り返すが、これはあくまでも私見である。客観性などまるでない。けれども、作者の物語に対する愛情は、疑いのないものであると思うし、僕自身は限りなく確信しているのである。

その他のこと。『ヒカルが地球にいたころ……』というタイトルが素晴らしい。どこか古い少女漫画を思わせるセンチメンタルさと、SF的なイメージがある。どこか、はかないイメージは、この物語に良く似合っているように思う。コミカルで、ある意味、熱さもある物語ではあるものの、ヒカルという(比喩的な意味でも、実質的な意味でも)浮遊した存在が核になっていることで、この物語は”はかなさ”を獲得している。それは、ヒカルがいつ消えるかわからない不安定さと、裏腹の彼の残した影響力の強さの綱引きによって、かろうじて物語が成立していることから生じているようにも思う。是光が、強く、ヒカルの存在をこの世に残そうとすればするほどに、ヒカルの不安定さも強く感じられる(”幽霊”が成仏するときが近くなる)。是光が、ヒカルに友情を感じれば感じるほど、既に失われた(あるいはこれから失われゆく)友情の輪郭が強まることになるのである。”はかない”というのは、ただ存在が希薄なのではない。強く存在があるにもかかわらず、消滅することが定められる”もの”に、”はかなさ”というのは、宿るものなのだ。その意味では、この物語は、”はかなさ”にまつわる物語でも、あるのかもしれない。

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