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2011.06.03

『Wizard―Daily Fairy Tale』『Wizard―Passion Fruit』―愛と信頼の輪舞曲―

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Wizard―Daily Fairy Tale 』『Wizard―Passion Fruit 』(小竹清彦/幻狼ファンタジアノベルス)

アップルジャックシリーズにおいても登場した、天才的なハッカーにして幼い少女である、ウィザードこと桜とその周囲にいる人たちの物語である。アップルジャックシリーズと同様、一人の早熟にして気高い魂を持つ少女を、周囲の大人たちが、厳しくも優しく、なにより大切に支えていく物語だ。だが、アップルジャックにおけるシトロンを中心した関係と異なり、桜の周囲にいる人間は、どこかパーソナルスペースが狭い。ただの家族よりも、さらに親密な関係な、例えるならば、東京の下町における貧乏長屋で、お互いの個室などもないような、他人でありながら家族よりも親密な結びつきと言うような、そのような印象を受ける。アップルジャックシリーズにおいては、バーが重要なモチーフとなったように、彼らの結びつきは緊密であるが、同時に孤高なものであったことと対象的である。どちらが良いというものではなく、シトロンと桜の、似ているようで、違う生き方そのものに依拠する関係性なのであろう。どちらも正しく、正解などない問題だ。

桜は、孤高なようでいて人懐っこく、周囲に数多くの人間が集まってくる。突き放しているようでお節介な桜は、それゆえに、周囲の問題に巻き込まれていく(ときに自分から首をつっこんでゆく)。そして、そうした行為が、周囲の大人たちを自然に桜を支えさせ、桜に救われた相手は桜のことを大切に思うようになってゆく。そのように、好意が好意によって迎えられ、さらに多くの人へ好意が伝播していく。世界には悪意があり、狂気もあるが、それを押えるだけの愛もまたあると言うことが、桜を中心にして語られるところにはある種の説得力を感じる。なぜならそこには”理知”があるからだ。善意に対して、善意で返そうという、人々の良心と言う名の理知が、この物語の根底に、ある。正しいことをした人間には、必ず正しいことが帰ってこなくてはならないという”願い”が、この物語をとても優しいものにしているのだろう。

理知というのは、つまり理性であり、道徳である。人間というのは感情の動物で、感情に支配された人間というのは獣と変わらない。人間は、己の中の獣を、いかに理性という手綱で飼いならしていくのか、ということに取り組んできたのだ。理性を持ってして、人は他者の存在を認めることが出来るし、他者を受け入れることが出来るようになる。それこそが理性の力である。桜たちは、すべてこの理性の代弁者ともいえる。他者を食い散らかすことしか考えない獣たちに対して、あくまでも理と知の力で立ち向かい、善意によって行動し、愛をもたらす魔術師。それが桜だ。

そして、そんな桜を、周囲の大人たちは本当に大好きなのだ。彼女のあり方が、実際には奇跡的なものだと理解しているがゆえに、彼女を愛する。彼女のような存在が、この世に存在しているだけで、この世は存続するに値するとも思える。大人たちは大人であるゆえに、すべてが理性的に行われることなどないことを知っているし、感情のままに過ちを犯すことも知っているし、己自身が他者を傷つけることもある悪であることを理解している。だからこそ、”それを知っていながらも世界を愛している”彼女を愛するのである。

実際、桜の長いとはいえない人生は、決して明るいだけのものではなかった。むしろ、天才であるがゆえに、生きることの暗さに、誰よりも早く気がついていた少女であった。それゆえに、彼女は早くに自分のもっとも大切な存在を失うことを味わい、その苦しみにも耐えなければならなかった。彼女自身、一度も絶望しなかったとは、決していえなかっただろう。彼女は天才ではあるが、不死身ではなかったし、怪物でもなかったのだ。

”それゆえに”、周囲の大人たちは彼女を支えようとする。彼女のつらさを知るからこそ、彼女の苦しみを知るからこそ、彼女が世界に絶望しないように、彼女を支えようとする。桜は、確かに多くの人々を救うヒーローかもしれないが、それ以上に、”彼女が救ったものにこそ救われている”。そのことに、彼女はとても自覚的である。彼女は多くのもの助け、手を伸ばし、伸ばした手をとってもらえたことで救われるのだ。

おそらく、そのように、与え、与えられる関係になるからこそ、桜を中心にした関係は、どこまでも暖かく、親密なものになるのだろう。そのような関係は、僕にとっても理想的なものだと思えるし、とても大切なものであるとも、思えるのだった。

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