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2011.06.20

『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』

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アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』(ゲイル・キャリガー/ハヤカワ文庫FT)

一言で言えば、19世紀倫敦を舞台としたハーレクイン禁書目録である(……一言か?)。異種族が流入した倫敦では、妖精、妖怪、怪物が人間と共存する都となっているのだが、彼ら、人外の存在は人間社会に深く根を下ろしており、良くも悪くも、身近な隣人となっている。重要な社会的地位についているものもいるし、一方で、人外のものたちも人間の文化を受け入れ、同じように文化的生活を営んでいる。この倫敦では、人狼の親分が警察の偉い人になっていたり、吸血鬼がお茶会を開いたりしているのである。

そんな文化的な”異界族”の都となった倫敦であるが、それでもやっぱり身分的、性差による格差は拭いがたく残っているようだ。そんな社会に窮屈と鬱屈を抱いているのが、我らが主人公にして知的なオールドミス、アレクシア女史である。彼女自身のパーソナリティにおいても、非常に頭の回転が速く、時代背景にしてはいささか勇敢(あるいは無謀)なほどの勇気を持った女性であるものの、オールドミスたる自分にはいささか忸怩たるものがないではない、という平凡ながらも稀有な人物ではあるのだが、彼女は”魂なき者”《ソウルレス》という特殊な血を引いていたため、平凡な日常には縁のない人生を送ることになるのであった。

目の前にやってくる危機に対して、否応なく、ときに積極的に首を突っ込むアレクシア女史だが、それゆえに周囲に居る人々は気の休まる暇がない。その筆頭が、異界管理局の捜査官、マコン卿である。とある人狼団のボスである彼と、アレクシア女史との、お互いに素直になれないツンツンしたやりとりは、この作品の肝の一つであろう。とくにマコン卿は、読者から見れば明らかにアレクシアに参ってしまっているのに、そのことに対する自覚がないという見事なツンデレぶりを披露してくれる。アレクシアも、野性味たっぷりな(そりゃ人狼だからな)マコンに対して、あんな「下品な…でもドキドキ」(ただしイケメンに限る)状態なので、物語後半で、お互いの気持ちに気がついてからのラブカップルぶりには、超絶的な糖度の高さとなるので要注意だ。

アレクシアはあくまでも淑女(笑)なので、いかに勇敢で機知に富むとはいえ、限界がある。とくに物理的な危機には無力だ。そうした危機に対しても、機知と勇気で立ち向かうアレクシアの冒険は、昔ながらの冒険小説の風情も漂う。出来ることは出来る、出来ないことは出来ないというさっぱりした割り切り方は、実に女性的な印象を受ける。まあ、荒事は無骨な殿方に任せれば良い、というのは淑女というものなのかもしれない。

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