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2011.06.21

『金の瞳と鉄の剣』

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金の瞳と鉄の剣』(虚淵玄/星海社FICTIONS)

今どき珍しい、剣と魔法の異世界ファンタジー。しかも、日本のJRPGの影響下にない、翻訳物ファンタジーの影響を色濃く残しているところなど、珍しいを通りこして貴重ですらある。過剰な悪役は存在せず、わかりやすい魔物もいない。あくまでも、”人”の物語となっているところに、かつての翻訳ものファンタジー小説の匂いがするように思う。主人公二人組みの冒険というのも、ファファード&グレイマウザーシリーズを思い起こすまでもなく、ファンタジー小説のお約束でさえあるのだ(異論は受け付けよう)。

我らが主人公コンビのタウとキア。傭兵として生きてきたタウと、超越的な魔術の力を持つキア。現実的で現世利益を追い求めるタウと、俗世の価値に興味のないキア。人生の裏街道を立ち回ってきたタウと、生まれながらアウトサイダーとして隔離されていたキア。何もかもが正反対な、それでいて”外れもの”であるところだけは共通している二人が、龍と剣と魔法の世界を旅をする。彼らは旅の中で、財宝と名声を求め、ときに妖精の囁きに惑わされ、古の遺跡で不死者たちと渡り合うのだった。

虚淵玄の描く彼らの物語には、ケレンはほとんど見られない。世界の命運もかからなければ、驚くべき悪党もいない。あくまでも、異世界に生きるただの人が、異世界の不思議な出来事に関わっていく物語だ。キアの持つ力は、すでに一個人の持つ力を超えているように思えるが、それでも、彼は己の力を、己自身にしか用いようとはいないのだ。彼らはヒーローではない。ただの個人に過ぎないのである。そんな彼らが、不思議な出来事に出会いながら、己の人生を歩んでいく。これはそのような物語だ。

彼らの冒険には、派手な要素はなにもないが、彼らが当たり前の冒険を繰り広げている物語に、その向こう側になる異世界を感じさせる物語になっているところが、良い。奇譚とでも呼ぶべきな、彼らの冒険は、ケレンという不純物がないだけにとても素直に異世界の奥行きを感じさせてくれる。つまり、異世界であろうとも、人が生きているということを、感じさせてくれるのだ。人間も、妖精も、龍も、亡霊も。そこには、きちんと、存在の確かさが、あるのだ。

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