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2011.06.15

『百合×薔薇 彼女の為の剣と、彼の為の乙女の園』

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百合×薔薇 彼女の為の剣と、彼の為の乙女の園』(伊藤ヒロ/スーパーダッシュ文庫)

女装少年の女子校潜入でお姉様で妹で伝奇アクションということで、題材だけ見ると、流行りものを片っ端からつっこんだ、極めてあざとい作品である。しかしながら、そこまでにあざとく要素を詰め込みながら、不思議なことに(本当に不思議なことに)、意外と、と書くと失礼ながら、まっとうなエンターテインメントになっていると思う。なぜなら、要素の過剰さと比べて、物語そのものはとても丁寧に作られているのが原因だろうか。例えば、先ほど書いた女装をはじめとしたさまざまな要素も、ただ、萌え要素を盛り込んだだけではなく、それらがすべて物語的に意味を持っているのだ。女装して女子校に入るのは、主人公の姉からある目的のために指示されたことであり、その目的が物語全体を動かしていくことになる。この目的については、冒頭から示唆されてはいるのもの、明かされることはないため、読者をその謎で引っ張り続けてゆき、そして、最後に主人公の秘密が明らかにされることによるカタルシスまで描かれているのだ。あとは、女子校ものの醍醐味である(偏見)姉妹関係も、いわゆる百合風味なハーレムものであると同時に、少年漫画的な仲間集め的な要素もあって、これは褒めているのだが、実に計算高く作り上げられている。

キャラクター的なところをいうと、主人公の造型には新鮮さを感じる。一見したところ、ただの主体性のないヘタレ主人公のように見える。事実、姉の命令に絶対服従し、口では文句をいいながらも、実際に反抗することの出来ない情けない姿勢なのだが、物語の途中で、主人公の行動は、基本的に男前な態度を見せていく。それは、ヒロイン達に勝手に誤解されているだけのように見えるが、その実、彼の本来の姿が現れて来ているところが面白い。もともと主人公はそういうことが出来る人間であって、別に成長してそういうことが出来るようになったわけではない(その意味では成長物語ではまったくない)。そもそも、彼が姉の命令に従っているのも、姉に逆らえないのではなく、姉に逆らわないことを”覚悟”している人間であることが、最後に分かってくるに至り、主人公の人間性が反転してしまうのだ。既に明らかにされている絵が、別の角度から見ると、まったく違う絵が浮かび上がって来るというキャラクターの組み立てをしており、なかなか珍しいと思うのだった。

実はこの組み立て方は、この作品の作劇そのものにも関わっている。当初、読者に提供されていた物語が、進行するにつれて、別の物語がその裏に組み上がっているのが分かってくる。一見、姉がすべてを支配していたように見えた物語が、本当は、主人公こそが、すべてを支配していたという物語があり、それがキャラクターの作劇と結びついてゆくところに美しさを感じるのである。

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