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2011.06.13

『電波女と青春男(8)』&『電波女と青春男SF版』

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電波女と青春男(8)』&『電波女と青春男SF版』(入間人間/電撃文庫)

最後まで、宇宙人について、まったく触れようとしなかったところが良かった。エリオが果たして宇宙人であるのかどうかは、この物語にはあまり重要な要素ではない、というのは自分の中でも腑に落ちるものがある。なにしろ、エリオのキャラクターとして、電波女であったのは一巻の時だけであって、二巻以降は、彼女が”地球人”として生きていくという認識のもとに行動しているように見えたからだ。ある意味、その時点で、エリオ自身の物語は焦点ではなく、真と、その周囲にいる人々の物語になっているようにも思える。あるいは、電波女とはエリオのことのみを指すのではなく、真が遭遇する、内面がなかなか見えてこない不思議な女の子たち全般のことを指すのかもしれない。別に彼女たちが特別に変わっているのではなく(まあユニークなキャラ、あるいはそれを装っているとは思うが)、女の子というのは男の子にとっては、いつでも訳が分からない宇宙人のようなもの、という意味も込められているのかもしれない。

しかし、だからといって、宇宙人のことを、完全にメタファーとして捉えるのも、正しくない行為だ。なぜなら、宇宙人という(言葉通りの)存在は、エリオの行動原理のどこかに、あるいは真がエリオを見る目のどこかに、常に宇宙人の存在が意識されている。エリオが行動を起こすとき、宇宙人は彼女の心を支えてくれるものであったし、あるいは彼女がいつか決別すべき”ライナスの毛布”であったことは間違いない(エリオが巻いているものが布団である、などということは、今更言及することが恥ずかしくなってしまうくらいに、そのままだ)。あるいは、真がエリオに対して感じる、この世ものならぬほどに綺麗な女の子、というイメージは、彼女に対する現実感の不在と、別離への予感が合い混じったものであるのかもしれない。つまり、文字通りの意味としての宇宙人は、真とエリオの関係の中でのみ、意味を持つものなのだ。

物語が経過していくにつれて、真がエリオに対して感じていた宇宙人は、除々に姿を消してゆく。エリオは絶世の美少女から、少しずつ普通の、平凡な女の子になってゆく。どこか、壊れ物を扱うような態度だった真は、少しずつ、いつの間にか、気安い従妹に対するものに変わってゆく。この関係は、一見、二人の関係から、宇宙人は完全にいなくなってゆくように思えるのだが、しかし、これは、ある意味において、宇宙人という非日常的な存在が、日常の中に溶け込んでゆくということであるのだ。そして、普段は意識しないながらも、視界の端にその影が、映る。そうして、思わず、はっとするような気持ちになるのだ。

存在があやふやで、信憑性にも欠けているからこそ、それゆえに存在が際立つ。これは、本当に大切なことは、饒舌には語らない、ということと同じである。それと同様に、真とエリオにとって、宇宙人とはそういう存在であった、作者が、最後の最後まで、宇宙人というものの存在を、いるものともいないものとも扱わなかったことで、それゆえに、作品全体に、宇宙人の存在が影を落としていたのだった。それゆえに、”最後の最後で表われた存在とは、その存在の確かさゆえにその存在感を失っている”のだ。語られないからこそ、真の中に、エリオの中に、その存在は、あまりにも強く根を下ろしていた。その存在が表に出たとき、その存在に触れたことで、彼の心は、ようやくに宇宙人の呪縛から解き放たれた。本当に重要なことは、語られるべきではない。つまり、語られるときが来たときは、それは重要な囚われではなくなっている、ということだ。

そのようにして、彼は、本当に意味で、エリオと共に、平凡な人生を歩むことが出来るようになったのだ。

追記。SF版については、自分は”答え合わせ”のつもりで読んだ。というのは、SF版を一読すると瞭然なのだが、物語の視点が、”真ではない”のだ。それは、真の一人称という意味だけではない。正確には、作中登場人物のだれにも視点元になっておらず、神の視点からの物語になっている(きっと、宇宙人が空から俯瞰しているのだろう)。それゆえに、物語は、真の視点からでは存在しないような物語になっている。例えば、真が、エリオの従妹であることによって、学校ではどのような立場になってしまうのか、といったような。あるいは、真が女々に対して、どのような感情を抱いていたのか(これは本編でも良く分かるのだが、より直接的な描写になっている)。真が、読者に対して、あまりにも饒舌な語り口で糊塗している、さまざまな出来事が明らかになる。真のエリオに対する感情など、そうしたところも非常に明確になっているため、本編での関係性の補完のような位置付けのように思えた。具体的な差異については確認するつもりはないが、興味のある人はやってみてもいいかもしれない。

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