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2011.06.10

『烙印の紋章(8)竜は獅子を喰らいて転生す』

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烙印の紋章(8)竜は獅子を喰らいて転生す』(杉浦智則/電撃文庫)

ついにギル・メフィウスが復活である。ガルダ編を通じて、王の責務を改めて受け入れたオルバが、ギルとして、王の責務を果たすために蘇る最後の過程が描かれる。これから本編は帝国本土での陰謀との対峙に移る可能性が高いように思えるので、あるいは帝国編への最後の助走の回なのかもしれない。ただ、個人的には、ギルとしての復活はもう少し後になるのではないか、と思っていたこともあり、今回は急展開のように感じた。そもそも、なぜ自分がもう少し後になると思ったのかというと、前巻の時点では、まだオルバは、ギルとして立つことに対して、迷いを抱いていたように思えるからだ。ギルとして立つ前に、その迷いを払拭するイベントを経てから、本格的に復活に動き出すのが、セオリーだと思うし、その辺りの覚悟を曖昧なままにしては、ギルとして暗闘を生き抜くことなど出来ないだろうと思うからだ。

しかし、この巻で、オルバはギルとして復活してしまった。自分が気になっていた、ギルとして立つことの覚悟がどうなったのか、正直なところ自分には良くわからない。しかし、これが作者の手抜かりというのは、まだ早いだろう。なぜかと言えば、今回のギルの復活は、多分に予測外の出来事が発生したために行動した、ギリギリの見極めの末の選択だったからだ。断言は出来ないが、おそらく、どのように行動するか、決断が出来ない状態にあった。メフィウスの元に残してきたかつての部下たちが、適当な理由を付けられて処刑されかかってしまったこと。そして、なによりもビリーナの行方不明などが重なり、それらに対して優柔不断な態度で対処しようとしてしまっため、味方に疑いの眼差しを向けられることにさえなる(まったく彼らしくもない完全な手抜かりで、ここに迷いが表われていたのだ、と解釈することはそれほどおかしくもないだろう)。その状況から逆転するために打った手が、ギル・メフィウスの復活であった、ということだろう。従って、周囲の状況に流される、と書くとあまり良い印象ではないが、状況を変えるためにうった手がギルの復活であったわけで、この選択がどのような結果をもたらすのかは、次回以降で描かれることになるのだろう。

さて、今回の話を読んで、改めてビリーナの影響力というものを感じた。なんと言っても、オルバが己の岐路に影響を与える重大な決断をする時には、必ずビリーナの影がある。今回のオルバの決断についても、その最初の取っ掛かりはビリーナの行方不明があった。本来ならば、もう少し後になるはず(私見)だった決断が、彼女の存在によって早まった。果断なように見えて、自分自分のことになると、迷いを見せるオルバの背中を押す、強いキャラクター性の持ち主であるが、同時に、それはオルバにとっての諸刃の剣ともなりかねない存在だ。オルバがメフィウスの皇帝になることは、すでに決まった歴史であるようであるが、そこに至る過程において、ビリーナがどのような役割を果たし、そのような結末を得ることになるのか、それは歴史には語られることはあるまい。歴史に描かれない裏側は、果たしてどのような結末を辿ることになるのか。その物語は、まだわからないのである。

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