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2011.05.10

『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅠ』

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クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅠ』(五代ゆう/ハヤカワ文庫JA)

原作ゲームはプレイしていないので、内容の差異については述べない。しかし、アトラスのゲームであるのならば、おそらく主人公にキャラクターが付与されないタイプの作品であるのは容易に想像がつく(調べもした)。そのあたりを考慮して考えると、この作品は、きちんと主人公サーフの物語になっている点は面白いところであるように思う。

主人公が喋らないタイプのRPGと言うのは、プレイヤーが主人公と同化するタイプのRPGであり、プレイヤーは主人公として物語に関わっていくことになる。プレイヤー=主人公であるのならば、主人公のパーソナリティと言うのは存在すると、プレイヤーの同一化を阻害してしまうため、避けられる傾向にある。

従って、主人公が喋らないタイプのRPGをノベライズする時には、色々と苦労することが多いように思われる。これまで真っ白だった部分に筆者の手でキャラクターを付与する必要があり、しかし、あまりにも勝手なキャラクター性を付与してしまっては、今度は読者から拒否反応を受けてしまうことになる。「こんなのあの作品の主人公ではない!」など。これはもうどうしようもないことである。なにしろ喋らないタイプの主人公はプレイヤーによって想像される幾通りものキャラクター性が付与されているため、すべてを満足させることは不可能なのだ。それゆえに多くのノベライズではあまり過度な肉付けはされないまま、希薄なキャラクターとしてノベライズされてしまうことになる。個人的な感覚になってしまうが、そのような希薄性を維持したキャラクターにはあまり興味をそそられないのが正直なところだ。

だが、このクォンタムデビルサーガは紛れも無くサーフの物語である。しかし、サーフ自身はそれほどに強い個性を持っているわけではない。むしろエンブリオンのメンバーの中では一番地味なキャラクターである。つまり、先ほど述べた希薄なキャラクター性の持ち主であるのだ。それでも彼の影が薄いという印象は自分はまったく受けなかった。むしろ尖ったところの無いゆえに、彼の心の動きが滑らかに語られており、一つの作品としてきちんと消化されている。そこに非常に感心したのだった。

この作品はノベライズではなく原典(ゲームを小説化したのではなくこの小説をゲームにした)であるという事情もあるだろうが、それ以上に、五代ゆう先生がキャラクターを描くタイプの作家ではないと言うところが大きいのだろう。そもそも、彼女が描く物語の中で尖ったキャラクターはほとんど出てこない。むしろ内面的にはどこにでもいる普通の、と言うよりもステレオタイプなキャラクターが多い。だが、作者の非凡なところはステレオタイプな登場人物たちが絢爛にして幻想的な物語を経過することによって変化していく心の動きが非常に美しいと言う点にあるのだ。それゆえ、ステレオタイプであると言う点は弱点にはならず、むしろ読者にとって共感しやすい登場人物となりえるのである(自分が思う特徴はそれだけではなく、彼女一流の幻想的なイメージ喚起力も上げられるのだが、一巻においてはまだそれほど全面に出ているわけではないので、次巻以降の感想にて言及したい)。

サーフと言う主人公は今作の中においても非常に淡白なキャラクターではあるのだが、それでいながら、と言うより、だからこそその内面の描写が無理なく描かれている。感情もなく淡々と殺し合いを続けていたサーフたちが突然に得た感情に戸惑い、苦しみ、それゆえに大切なものと考えていく過程が読者に感情移入しやすい形で描かれているのだ。ここはゲームと小説と言う媒体の違いにおいてもっとも大きなところであるだろう部分だが、プレイヤー=主人公と言う図式が崩れ、主人公にパーソナリティを付与しつつも感情移入を阻害しない。これは意図してと言うよりも五代先生の作劇でやったら偶然そうなっただけと言う気もするのだが、少なくともノベライズ(のような作品群において)珍しい結果に終わりそうな印象があって、興味深いところである。

さて、前置きが長すぎてもはや前置きではなくなってしまった感がある(いつものことだ)。内容についてぜんぜん書いていないのはもう自分でも諦めている。しかし、サイバーな世界観でありながら、独特の豊かさを背景に持つイメージは健在である。完全に”五代ゆうの世界”になっているので、一ファンとして結末まで見届けたい。

追記。物語そのものについては次巻の感想で書こうかと思う。すでに2巻も読んでしまったので、まとめて感想と言う事にしても良かったのだが、ごらんのありさまだった。2巻は別に書くことにしよう。まあそっちもちゃんと感想を書けるか分からないのだけれど(と、一応予防線を張っておく姑息さ)。

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