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2011.05.11

『人類は衰退しました(6)』

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人類は衰退しました(6)』(田中ロミオ/ガガガ文庫)

もはや日常系SF(しかし舞台は非日常)となっている人衰シリーズだが、今回のようにアイディアだけで回す話はむしろ技巧的であり、中編ながらも作品としての密度は高いようにも思う。本来は長編になりそうなネタを、下手に事件を起さずに収束させているからだ。そのために至極あっさり物語が終わるように感じられるが、それによってアイディア自体を際立たせると言う意図もあるのかもしれない。まあそうでないかもしれないが、自分の中ではそのように思っておくと「俺は分かっているぜ」感が刺激されるのでそう思っておく。

全体を語るのは面倒なので話別感想。

「妖精さんたち、すかいはい」

これはヤバイ。ものすごくヤバイ。何がヤバイって、これは完全にブラック企業の話なのだ。でかいことばかり言って現実的な手続きを省みないトップ。それをなんとか実現するために地獄のような労苦を味わう中間管理職。優秀な管理職が実現可能なスケジュールを作ってしまったがゆえに完全に無茶振りをされる現場。トップ以外は全員が自分に出来ることを誠実にやり遂げようとしているだけなのに誰も幸せになれないという構造的欠陥。もうだれがどう見たってブラック企業の形態そのものである。あまりの洒落にならなさに、一見したところほのぼのとしてさえ見えるコメディでありながら、読みながら震えが止まらない。”私”の陥る八方出口なし、な状況は自分の身を置き換えてみるだけで吐き気がしそうだ。そして、人類には出来ることと出来ないことがあるため、出来ないことがすべて妖精さんにのしかかっていくと言う展開もブラックにすぎる。妖精さんたちが、最後にすべてを解決するために”歯車”に変身するとか、もうブラックユーモアの域を超えている。ただのブラックだこれ。おそらく田中ロミオの実体験があからさまに反映されていると思うけど、実体験を小説としての再構成が甘く、まったくそのまんまなのが逆に田中ロミオらしい。この作者はこういういやらしいことをするんだ。露出的、露悪的。正直、悪い意味ではなく作者の肥溜めみたいな話だったけど、まあこれでも小説としてはきちんとしているのだから、文句のつけようも無い。

「妖精さんたちの、さぶかる」

これも本当にろくでもない話だ。と言うか、作者に現実を物語に咀嚼しようと言う気がまるでないのがいっそ潔い。ようするに、漫画/同人業界を巡る現実をそのまま書いているだけなのだ。現実に起るさまざまな業界話を、そのままSFガジェットを費やすことで再現している。と言いつつ、自分はそれほど漫画/同人業界に詳しいわけではないが、それにしたってあるあるネタが多すぎると言うものだ。だが、そうしたあるあるネタを、そのままでは物語として成立しないので、多少ぼやかすことによって物語として成立しているところは楽しい、のだろうか。あまり笑い事ではすまない内容をそのまんまやる事で笑いを取る。個人的にその類いはあまり質の良い笑いではないと思うが(何かを貶して笑いを取るのは質が高いとは言えない)、この場合は特定の個人を貶めているわけではないし、誇張はあれども嘘は書いているようには見えないので、苦笑交じりの笑いは出る。ネーム掲載は分かっていても笑ってしまう。ひどい話だ。

さて、二編の作品を読んだ結果、基本的にあまりにも”酷い”作品である(これは貶しているわけではないので念のため)。あまりにも直裁かつストレートに毒をぶちまけている。しかし、これは技巧的ではないと言う事は意味しない。物語としては充分に仕掛けがしており、登場人物もバタバタと動きを見せて、妖精さんたちはホエホエと戯れると言う基本線は守られている。その上で、あまりにも実も蓋も無い話をそのまんま語ってしまうところがあるのだ。このあたりに作者の性格の悪さが滲み出ているようで、非常に好感が持てるのだった。

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