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2011.04.08

『千の魔剣と盾の乙女』

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千の魔剣と盾の乙女 』(川口士/一迅社文庫)

こんな表紙ですが、実はこれ人類滅亡直前、ギリギリの瀬戸際で持ちこたえている人類の黄昏を描いている作品なのでした。あらすじを読んだ時点では、ここまでとは思わなかったな。すでに大陸は魔族に支配されており、人類は洋上の移動する島に点在するのみとなっていて、定期的に海岸線を接する時に起る魔族の侵攻を食い止めるだけと言う、終わりなき防衛戦を行っていると。十数年前とかに、魔王を封印したことによって、とりあえず魔族の再現ない跳梁は抑えられたものの、未だに反撃ののろしは上がっていない状態らしい。そもそも魔物には通常武器は一切通用せず、魔剣と呼ばれる特殊な武器でしか傷つけられないらしいので、まともに戦闘が出来るようになったのさえ最近の事みたいなので、よくそれまでに人類が滅亡しなかったものだなあ。

しかし、あらゆる意味で絶望的な人類の状況ながら、なぜかあまり深刻さが支配しているわけでもないのが奇妙なところではあります。6都市に分散して閉塞しているわりに、物資が不足している感じも戦時中の逼塞感もないし、滅亡寸前における悲壮感みたいなものも無い。そのあたりについては、魔物は海を渡れないという一点が大きいのだろうと思います。絶望的な状況であっても、相手の弱点が一つでも分かっていればだいぶ変わってくる。あちこちの島に生産拠点を分散しているらしいし。とは言え、人工制限はかなり厳しく統制されているような気もするけど・・・。あと、魔剣使いのみが魔物を倒すことが出来るようになったことで、拮抗状態が作れるようになったというのも大きいのだろうな。少なくとも状況が悪化しないのであれば、日常生活を続けていくことが出来る。その日常がいつまでも続いていくことを信じることが出来るようになるわけです。

そのように、ある意味において安定している世界で、一人、現状を打開(あるいは崩壊)させようとする夢を抱いているのが主人公のロック。彼は、現在は封印されている魔王を倒すことを目指している。ところが、彼のその夢は、会う人すべてにバカにされてしまう。魔王こそがすべての原因であり、人類の過酷な運命を強いているのは間違いなく魔王のはずなんですが、なぜか魔王を倒そうとするロックは、むしろ軽侮されてしまう。これは、いかに過酷な状況であれ、人間は適応してしまう(せざるを得ない)とも取れますね。安定した日常を破壊してまで、現状を変えたいとは思わない。

読者としては、現在は安定しているかもしれないけど、魔王の封印がいつまで持つか分からないし、魔物は海を渡れないから安心とは言っても、なんらかの要因によって魔物が海を渡れるようになったら、その時点で人類は滅亡することは確定しているのだから(はっきり言って、この時点で人類が滅亡していないのは、この二点が保証されているからに過ぎず、前提が崩れればすべてが終わる)、一刻も早く打開策を見出すべきだと思うんですが、そこまで考えられないのが人間と言うもの。明日を夢見る前に、今日の食事を手に入れなくてはいけない。これは間違っているわけではないですよね。

だからと言って、明日を夢見るものが否定されて良いわけでもなく。明日の事を考えることが、なぜバカにされなくてはならないのか。夢と現実とは言うけれど、現実を知ることが”賢い”ことなのか。そうした摩擦を経て、少年は成長していくという、非常に正しい意味でのビルドゥンクスロマンとなっています。作者の丁寧と言うか、生真面目な物語の作り方は健在で、相変わらずライトノベル的ではない。ジュブナイル的な作品作りですね。

現時点では、主人公が「なぜ夢を見るのか」と言うところが保留されているので、他者の夢を継承するだけではなく、その上に自分なりのものを積み上げていけるかどうかも重要になってくるのかもしれませんね。まだロックの冒険は始まったばかりですが、きちんと物語に決着がつくところまで続いてくれることを願って止みません。

リーナの続きは出ないんだろうなあ。ハア・・・。

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