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2011.03.02

『毒吐姫と星の石』

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毒吐姫と星の石』(紅玉いづき/電撃文庫)

作者のデビュー作の続編にあたる作品ですが、物語は独立性が高いのでこの話だけでも大丈夫。物語は、悪態をつきながら生きてきたエルザが突然王女として剣の国レッドアークに嫁ぐことから始まります。・・・と書くと、なんかものすごい少女ドリームな話に思えることに気がつきました。貧民から王女になって王子と結婚するとか、どんな願望充足?とか思いますな。まあ、この作品はそういうベタなところから始まって、最終的には、・・・あれ?ベタに終わるな・・・。読み終えて、感想を書いてから初めて気がつく驚愕の事実(ほんとか?)。

しかし、物語はこれ以上はないというぐらいにベタながら、毒吐姫ことエルザには、異能めいたものが一切ないあたりがクレバーですね。毒吐姫とは言うものの本当に悪態をついているだけ。彼女の”毒”は別段に特殊な力と言うわけではなく、言ってみればただ外部に対する闘争の手段でしかないんですね。ただ、単なる闘争の手段と言うのがまさに重要なところなのだろうとも思います。なんの力も持たない彼女にとって、戦うためのあらゆる手段を最初から奪われています。そんな彼女が”抗う”ためには、それこそ言葉ぐらいしかなかった。彼女の”毒”は闘争への意思であり、生存を諦めないバイタリティでもあります。

ただ、それまでは”抗う”と言うため(だけ)に生きてきたに過ぎませんでした。何か目的があるとか、意味を見出すとか、そうした方向性を一切持たず、ただ目に映るものすべてを攻撃していたエルザが、レッドアークの王子クローディアスと出会うことでなんのために抗うのかと言う方向性、すなわち生きる意味を獲得していく話に繋がります。また、その方向性を与えるのがクローディアスであるというあたりは個人的にすごく良いと思います。彼は前作において、前作の主人公から”意味”を与えられた人物です。なんの役割も持てなかったと言う意味では今回のエルザと同じような立ち位置でしたね。まあ、エルザは与えられた役割を拒否して抗い続けていくというタイプなので、似ていながらも実は真逆の方向性ではあるんですが、違うからこそ与えられるものがある。すべてに噛み付く狂犬のようなエルザに、クローディアスは戦うことの意味を教えます。同時に、すべてを受け止めるクローディアスに、風穴をあける役割を、エルザは果たしていたようにも思います。そうして組み合った二人の関係から前作の物語を正しく継承していく。それによって、物語は”終わり”ではなく、その後も受け継がれていくのです。

その意味では、前作の物語がすでに歌になっているというのも、なかなかに興味深いところですね。彼らの物語は闇に葬られるのではなく、これからも語り継がれていくし、それによって受け継がれていくものもある。クローディアスとエルザの二人もまた、次の、どこかの誰かに受け継がれていく。そのようにして、世界に”正しいこと”が伝わっていけば良い。それが物語の役割であるし、個人的な祈りでもあると思うのです。

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