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2011.03.10

『難民探偵』

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難民探偵』(西尾維新/講談社)

西尾維新らしい設定で西尾維新らしいキャラクターで西尾維新らしい話を書いてしまった作品でした。エンターテインメントとかを事象の地平に投げ捨ててしまった感のある、ただただ西尾維新センスが迸っています。どういうことかと言うと、事件が発生してミステリとして盛り上がりそうなところは必ずスルーし、キャラクターを立たせて魅力的に見せられそうなシーンの描写は省いたりして、とにかく作品が”面白くならない”ように物語を組み立てています。

まあ、西尾先生がどういう意図でやっているのかは想像するしか出来ないんだけど、そこをあえて邪推するならば、たぶん西尾先生は、最近、エンタメを書きすぎたと思っているんじゃないかしら。化物語シリーズとか、普通にまっとうに面白い成長小説を書いてしまって、しかもそれが受けてしまったので、本人の中でバランスを取っている(別の言い方をするとリハビリをしている)感じがします。

と言うのは、これは自分のごく個人的な西尾維新観になるので客観性はまるでないけれど、西尾先生は、とにかく当たり前に、無批判に読者が受け入れている”常道”や”王道”、あるいは”お約束”と言うものに対して、常に疑義を突きつけてくる作家だと思っているからなんですね。わかりやすい例えで言うと、「複数対複数で集団戦をやっているはずなのになぜかタイマンになってて、他のキャラは解説しているだけ」とか「バトルで負けた主人公が唐突に特訓パートに入った」とか、まあそんなのが少年漫画的なお約束ですかね(他にもあると思うけど、ちょっとすぐには思いつかない。まあいいや)。で、西尾先生は、そういう誰もが当たり前だと思っていてスルーするところを、「集団戦で強いやつが一人いるなら真っ先に潰せばいいじゃん」とか「特訓パートに入っている主人公に悪役が追い討ちをかければいいじゃん」とか、そういうことをやってくるわけです。つまり、当たり前に存在している「空気」と言うものに対して、常に反逆している作家なんだと自分は思っているんですね。

で、化物語シリーズも、なんだか大ヒットしているみたいですけど、あれも本質的には同じもので。主人公は半吸血鬼とか伝奇アクション設定を持ちながらロクにバトルしねーわ、バトルしてもボロ負けするわで、とにかく酷かったね。ひたぎさんも今は一週回って萌えキャラとして認知されているけど、自分は化物語を初めて読んだ時は、このヒロインはすげーわ、って思ったもん。最初にガチで主人公に追い込みをかけるヒロインなんて、そんなのヒロインじゃねえ(笑)・・・と言うお約束をとにかくぶっちぎって造型されていました。いわゆる一般的な”萌えキャラ”がやらないことを一通り全部やっている感じですよね、ひたぎさん。まあそこが好きなんだけど。ひたぎさん。

だからまあ、化物語がヒットしたのはアニメ効果もあるけど、大筋のところはただの”偶然”でしょう。たまたま当時の西尾先生が常道の裏をついた作品を書いたら、たまたま時代の流れに乗って、たまたま既存の萌えキャラに飽いた読者の心にヒットしたと。まあ知らんけど。

でもねー、一度ヒットしちゃうと、と言うか一度物語を構築しちゃうと、どうしても”流れ”ってものが生まれてしまうんですよね。物語の圧力とでも言うべきもので、”こうあるべき”と言う物語の要請があるわけです。キャラクターも厚みを増してしまうし、書き手の制御も受け付けなくなっていく(キャラクターに反する行動は取り難くなっていく)。まあ、そのあたりを強引に舵を取って、固まりかかっていた羽川さんのキャラクターを解体した「猫物語」はやっぱりすごかったね、と言う話になるんだけど、この話をしだすと長くなるのでやらない。

ともあれ、西尾先生としては、物語の圧力に縛られない環境で、思う存分に王道を裏をつく作品を作ってみたい時期であったのではないかな、と思うわけです。つまり、探偵は活躍せず、彼の推理は見事に外れ、助手はほとんど事件には興味を見せず、探偵の友人は愚痴を延々と吐き続ける。事件はまったく劇的ではなく、解決もグダグダに終わる。すべてがエンタメの裏側をついているんですね。いや、西尾先生的には、「探偵が推理に失敗してグダグダになる話も面白いんじゃね?」ぐらいに思っていた可能性は無いとは言い切れませんが、まあでも普通に読んでエンタメの方程式をひっくり返しているように思います。

その意味では、化物語シリーズの同工異曲にして、裏面として、この作品を位置づけることも出来るかもしれませんね。

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